米国を拠点に、スイスで製造されるフレミングは、創業者の長年の情熱による集大成であり、長期的な視野でこの業界に参入することを計画している。
時計の世界はとても狭く、“秘密”という概念は曖昧に守られているだけであり、もしかしたらこの話の一部をご存じかもしれない。しかし本日(3月11日)、米国に拠点を置く新しい独立ブランド、フレミング(Fleming)の最初の時計、“シリーズ1 ローンチエディション”がついに登場した。スイスのパートナーと協力して製作された時刻表示のみのドレスウォッチは、すでにさまざまな計画段階に入っている3つの時計コレクションのファーストシリーズだ。“フレミング”という名前は知らなくとも、この新しいブランドの背後にいる人物の何人かは知っているかもしれない。
フレミングのシリーズ1は、パンデミックの最中に自身のブランドを立ち上げることを夢見たコレクターである、アメリカの若き創業者トーマス・フレミング(Thomas Fleming)氏の脳内から生まれた。その夢を実現するために、彼はスイス時計業界にいる巨匠たちに協力を仰いだ。
「情熱があってこそのプロジェクトです」とフレミング氏は言う。「過去50年間のうち、本格的な大規模事業を開始してから、数年以上存続しているブランドはほとんどありません。このような事業に取り組むには、情熱が必要なのです。そして私は時計への大きな情熱があったので、自分の時計をつくるのは楽しいだろうと思いました。しかし時計に対する独自のコンセプトや時計製造のアプローチなど、ほかのブランドとは異なるものを作りたいという思いもあったのです」
実はコン氏はフリーランスのフォトグラファーとしてHODINKEEで働いていたことがあり、私がHODINKEEに入社するずっと前から、ニューヨークの時計イベントで何度か会っていた友人である。フレミング氏とはInstagramで同じようにつながり、数年前にやり取りを始めている。しかし友人になった当初から両者には、今回の発売に関するいかなる報道についても、話題にする価値のある製品であることが前提だと伝えていた。そして彼らは結果を残したと思う。
フレミング シリーズ1 ローンチエディションは、現代的なドレスウォッチとして最適なサイズである。直径38.5mm、厚さ9mm(うち1mmはドーム型風防)、ラグからラグまでは46.5mmで、ケースは3種類の素材で展開している。トーマス・フレミング氏は、“何百ものケース”を3Dプリントして縦横比を計算し、実際に装着してサイズ感を調整した。ミドルケースはサテン仕上げの上下面、ポリッシュ仕上げのケース側面、開口部が設けられたホーン型ラグの3つのパーツから成る。素材はタンタル(25本)、ローズゴールド(7本)、プラチナ(9本)が用意され、価格は4万5500スイスフランから5万1500スイスフラン(日本円で約765万~865万円)となっている。
ケース内部には、有名な独立時計師ジャン-フランソワ・モジョン氏とクロノードのチームが開発したCal.FM-01を搭載する。ムーブメントは伝統的な手作業によって仕上げられた、セミスケルトンのブリッジと香箱が特徴だ。これにより約7日間のパワーリザーブを実現するツインバレルに供給された巻き上げ量を確認することができる(なおムーブメントの裏側にもパワーリザーブ表示がある)。
モジョン氏が加わったことは、プロジェクトにとって大きな恩恵をもたらした。彼の仕事は、彼自身の影響力と比べるとやや控えめだが、伝説的だ。カリ・ヴティライネン(Kari Voutilainen)氏と組んだMB&FのLM01とMB&F LM02のムーブメントから、ハリー・ウィンストンのオーパスX、エルメスのアルソー ルゥール ドゥ ラ リュンヌ、チャペックのケ・デ・ベルクまで、数え始めるときりがない。
同プロジェクトと同様に恩恵を受けているのが、名匠カリ・ヴティライネン氏が所有するコンブレマインで作られる、手作業で装飾された文字盤だ。同チームの技術は一目瞭然である。RGのモデル(シリアルナンバー入り7本)は、インナーダイヤルとランニングセコンドのインダイヤルに手打ちで模様を入れ、アウターリングには手作業によるギヨシェ彫りが施されている。プラチナモデルの文字盤は手作業によるギヨシェのみで仕上げている。最後に、タンタルモデルの文字盤には、フロストプラチナとダークブルーのアベンチュリンをミックスしている。
これらのサプライヤーに加えて、ブランドはラ・ショー・ド・フォンのTMH(Traditional Mechanical Horological)社から追加部品を調達し、さらにル・ロックルのデザインスタジオ、ネオデシスと共同でデザイン設計している。またスイス・バスクールにあるエフェトールは、タンタルを含むこれらのケースに取り組んだ。ラグがスケルトンになっているため、ほかのケースメーカーはタンタルでそれを実現するのは不可能だと考えていたと、フレミング氏は教えてくれた。
最後に、新進ブランドを手に入れる際に安心できる付加価値として、フレミング氏は保険会社と提携し、購入者が加入や承認をせずとも、販売時に1年間の無料補償をつけることを実現した。
昨年、3度のグランドスラムのファイナリストに残った、熱心な時計愛好家であるキャスパー・ルード(Casper Ruud)選手が、2023年6月の全仏オープンでブランドを“本格的に立ち上げ”たとき、どこからともなく現れたのだ。フレミングにとってもルード氏にとっても、それは大胆な行動であった。