出道20年、進化を遂げた「究極のツールウォッチ」:ベル & ロス BR-X3

2005年。ベル & ロスが初代「BR-01」を発表したその瞬間、あの「四角いケースに丸い文字盤、そして四つのネジ」というコンビネーションが、その後のブランドの運命を左右するアイデンティティとなるとは、誰も想像していなかったことでしょう。
BR-01は、航空機のコクピットにある計器盤を、文字通り腕時計に凝縮した存在でした。それから20年。時計は単なる「視認性」の道具ではなく、現代の装着習慣や審美眼にどうフィットするかが問われる時代です。今回登場した「BR-X3」は、まさにその20年間の集大成ともいえる、新たな次元のツールウォッチです。
誕生のストーリー:コクピットから宇宙へ
ベル & ロスの物語は1992年に始まりますが、BR-01の登場は航空計器の美学を腕元に再現するという、ブランドの原点を提示するものでした。その後、より日常的なサイズの「BR-03」を経て、さらに複雑な構造や現代的な素材を求めた「Xシリーズ」へと進化していきました。
「X」とは、実験的(Experimental)であり、未来志向(eXploration)であることを意味します。BR-X3は、このXシリーズの最先端技術を、定番であるBR-03のサイズ感と融合させた、ハイブリッドモデルなのです。
BR-X3 Black Titanium:航空宇宙への回帰
実物を手に取ったとき、まず目を引くのは「Black Titanium(ブラックチタニウム)」モデルです。
素材の選択: ケースには2級チタニウムを採用。表面はマイクロブラスト処理が施され、光を吸い込むようなマットな質感と、滑らかなタッチが特徴です。同じサイズのステンレススチールモデルと比べて、その軽さは一目瞭然。チタニウムは航空機やF1マシンにも使用される素材であり、強度と耐腐食性を兼ね備えているため、ツールウォッチとしての本質を追求した結果といえるでしょう。
三明治構造: BR-X5から継承されたこの構造は、頑丈な内殻をベースに、上下のケースやベゼルを4つの支柱で貫通固定するものです。これにより、複数の素材や色を組み合わせることが容易になり、視覚的な奥行きも生まれます。
視認性を極めた文字盤
BR-X3の文字盤は、3層構造によって構築されています。
デザイン: 下地はマットブラックの塗装。その上にX字型のメタルスケルトンが重ねられています。これは単なる装飾ではなく、文字盤の情報を明確にゾーニングするためのフレームです。
夜光性能: 時標や針には、白色のSuper-LumiNova® X1ルミエスセントがたっぷりと充填されています。これにより、暗所でも高い視認性を確保。外周の斜面状の分刻みも、視界の端まで文字盤を広げてくれる効果があります。
実用機能: 3時位置には大日付カレンダー、9時位置には動力貯蔵表示が配置されています。機械式時計の「生きてる感」を、すぐに確認できるよう配慮された設計です。
BR-X3 Blue Steel:未来への視界
一方、「Blue Steel(ブルースチール)」モデルは、全く異なる表情を見せてくれます。
カラーリング: ケースはサテン仕上げとポリッシュ仕上げを組み合わせたステンレススチール。文字盤はブルーのサンレイ仕上げで、銀色のメタルフレームと鮮やかなコントラストを成しています。
インスピレーション: この青みがかった色調は、アポロ11号の宇宙服に使われていた青色の部品や、宇宙機器を連想させます。中層の陽極酸化アルミニウム製ベゼルリングもブルーに統一され、まるで未来の計器を覗いているかのような錯覚に陥ります。
中核を支えるBR-CAL.323
裏蓋にはスモークブルーのサファイアクリスタルが採用され、内部のムーブメントを垣間見ることができます。
機械式の鼓動: 搭載されるのはケニッシ(Kenissi)と共同開発した「BR-CAL.323」自動巻きムーブメントです。
性能: 振動数28,800振動/時間、動力貯蔵約70時間。スイス公式天文台(COSC)の認証を取得しており、精度と信頼性は折り紙付きです。
防水性能: 100m防水を備えているため、海辺でのホリデーシーズンや、日常の水仕事にも全く問題ありません。
まとめ:20年目の答え
2005年のBR-01は、「どうすれば時計が正確に見えるか」「どうすれば壊れないか」という、ツールウォッチの原点を問いました。
そして2025年のBR-X3は、そのDNAを受け継ぎながらも、現代の素材科学と製表技術を駆使し、「どうすれば今日の生活様式にフィットするか」という問いに答えています。
これは決して派手な変身ではなく、長年の経験から導き出された、確かな進化の1ページです。BR-X3は、ベル & ロスがこれからも「究極のツールウォッチメーカー」として、次なる20年を歩んでいくための、確かな足がかりとなるでしょう。