ハンドメイド2は、270パーツのうち96%が完全に手づくりされた時計である。

ケース、ムーブメント、プレート、ブリッジは原材料から切り出し、すべて手作業で仕上げられ、下の写真のような時計ができるまで繰り返し改良される。ベン(・クライマー)がプレスリリースをチームに転送したときに言ったように、これは“真のウォッチメイキングのファンにとって大きな出来事”である。ここで言う真のウォッチメイキングとは、CNCやそのほかの機械がウォッチメイキングの芸術をさまざまな工業的工程に変えてしまう前、ずっと昔に用いられていたであろう方法で行われるものを意味する。このような挑戦のため、この時計は年に2~3本しかつくることができない。

ここで、マーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)氏とそのご友人たちにとって大事な日であることを茶化してみよう。それは、最近ザッカーバーグ氏がこの時計の前身である2019年発表の90万ドル(日本円で約1億4000万円)のハンドメイド1を着用しているところを目撃されたからでもあるし、62万スイスフラン(日本円で約1億700万円)という価格で、彼並みの予算をかける“本物志向の時計愛好家”がほんのひと握りしかいないからでもある。しかしこの時計の顧客は少なくとも8人はいる。発表されたばかりにもかかわらず、グルーベル・フォルセイによればすでに2027年の大半まで割り当て済みであるという。

グルーベル・フォルセイ ハンドメイド2は美しい。信じられないほど素晴らしい。グルーベル・フォルセイで手づくりされていない部品は、サファイアクリスタル、パッキン、バネ棒、ゼンマイ、そして石の、計5種類だけだ。

サテン仕上げ、ブラックポリッシュ、ストレートグレイン、ポリッシュされた側面、面取りといった5つの職人技は圧巻だ。それに加えてゴールドシャトンにセットされた、オリーブ型の石がアクセントを添える、ポリッシュ仕上げの面取りも見事である。しかしこうした仕上げには、レジェップ・レジェピ、フィリップ・デュフォー、ロジャー・スミスといったブランドで慣れてしまっている(恐ろしいことに、みんなそれを当然のように期待している)。だからこそ、なぜこの時計がロジャー・スミスの2倍以上、レジェップ・レジェピの4倍以上もするのか、多くの人には理解できないだろう。私自身、これがハンドメイドであることを自分に言い聞かせなければならなかった。そこにCNCマシンはなく、治具、のこぎり、針金、研磨剤、その他の手工具があるだけなのだ。

スミス氏のような人がCNCを使うのは悪いことではない。彼が過去に言っていたように、それは精度のためであって、必ずしも大量生産のためではない。ブリッジを大まかに成形する作業を減らし、最終的な完成に近づける。時計をつくろうと思い立ったところで、何十種類ものネジをつくるために12工程を超える作業をしたい人などほとんどいない。歯車やテンプは通常、切削やプレス加工で製造されるが、ここでは違う。しかし数十万ドルを節約するか、CNCマシンが関与していないものを選ぶかは個人的な判断となる。

ハンドメイド1を参考にすると、この時計製作にかかる時間の4分の3は部品の製造に費やされ、残りが仕上げに費やされる。簡単に聞こえるかもしれないが、ハンドメイド1の完成には8000時間以上かかる。ハンドメイド2の製作時間はもう少し短い可能性はあるが大差ないだろう。結局、ひとりの時計師が最初から最後まで組み立てるのだから。

技術的な仕様がないことにお気づきかもしれないが、その理由のひとつはグルーベル・フォルセイがプレスリリースで精度やサイズ(40.9mmで、のちに厚さは12.8mmだと聞いた)、コストよりも時計の芸術性に焦点を当てることにしたためである。また、トゥールビヨンはすでにハンドメイド1で実現しているため、今回のリリースではそこは追求しないことにしたという。代わりに約72時間のパワーリザーブを備えた4針のとし、手作業で成形された円錐形ジュエルパワーリザーブという革新的な機構を採用した。

この円錐形ジュエルは実に素晴らしく、フュゼ・チェーン機構を思わせるパワーリザーブ表示の独創的なアプローチである。グルーベル・フォルセイはほかの多くの技術的な詳細と同様、このシステムの仕組みについて多くの情報を提供していないが、どのように機能するのかちょっと推測してみようと思う。

円錐形のジュエルは単なる斜面ではなく、段階的に溝とテーパーが付けられているように見える。駆動系のどこかで歯車が宝石を回転させ、その回転を(レコード盤を読むスタイラスのように)上下に動く宝石の付いたアームが”読み取り”、パワーリザーブ表示に反映させるのである。ただし、どうして“スタイラス”が垂直に動くのか、その一方でそれに取り付けられたアームが水平にしか動かないのか、私にはよくわからない(もっと目のいい人がいたら考察を教えてもらいたい)。香箱が巻き上げられるときは、このシステムは逆方向に動く。

時計の裏蓋はハンドメイド1よりも少し簡素化されており、ブラックポリッシュ仕上げのアームや地板の裏側の(引っかいたような)グラッテ模様は省かれている。その代わりに、複雑なカットが施された美しくシンプルな半円形の窓からちょうど駆動系の歯車がいくつか見え、製造年とブランド名を示す2枚のプレートが配されている。地板の残りの部分は時計の前面と同様、手作業でグレイン仕上げが施されたジャーマンシルバーである。

ケースとリューズは手作業で製造されており、18Kホワイトゴールドの塊から削り出されている。厚さは12.8mmと特別薄いわけではないが着用に難はなく、つけ心地はとてもよい。市場で最もエレガントで独創的なケースというわけではないが、グルーベル・フォルセイによれば手作業で製造するにはこのようなシンプルなケースが限界なのだという。そこが気になる顧客もいるかもしれない。

ある友人(この件を公表する許可は得ている)は、ナノ・フドロワイアントEWTに関するフィードバックと同様、ハンドメイド2がグルーベル・フォルセイの真髄を表しているとは思えないと私に言った。さらに加えるなら、この手のオープンダイヤル的雰囲気を用いているデザインは、テオ・オフレをはじめとする独立系時計メーカーでも見られる。ほかのグルーベルのデザイン言語のほうが、市場のほかの製品との差別化において優れていると言えるだろう。

もうひとつ建設的な批評があるとすれば、パワーリザーブインジケーターのフォントとスモールセコンドの目盛りの太さが、全体のエレガンスとやや調和を欠いているように感じられることだ。グラン・フー エナメルもまた、洗練された芸術性をもたらす素晴らしいものだが、私には少し洗練さが欠けるように感じられた。

昨年ジュネーブで見たプロトタイプは、コレクターが期待し、好むジャーマンシルバー特有の経年変化をすでに見せ始めていた。ブランドから提供された画像では文字盤ははっきりと銀色だが、私が撮影した画像ではほのかに黄色く見える。新品が温かい色合いになるのにそう時間はかからないであろうことがうかがえる。

このような時計について、ほかになにか言葉にすることがあるだろうか。グルーベル・フォルセイの工房に足を運び、組み立てるために彼らがどのような作業をしているのか見てみたいと思わせるような時計だ。ハンドメイド1は実際に見ることはできなかったので、もしハンドメイド2がそれに触れる最も近い機会だとしたらそれだけでも十分ありがたいと思う。

グルーベル・フォルセイがこの時計を顧客に見せはじめてからしばらく経つ。年に2~3本しかつくれないため、すでに注文が殺到している。先述したように、すでに2025年と2026年の生産分は売り切れているが、62万スイスフラン(日本円で約1億700万円)の資金を使いたくてウズウズしているようであれば、2027年の割り当て分の入手に挑戦することは可能だ。この価格帯で探しているなら、2年待つ価値は十分にある時計と言えそうだ。

グルーベル・フォルセイ ハンドメイド2。直径40.9mm、厚さ12.8mmの18Kホワイトゴールドケース、30m防水。ハンドフロスト仕上げのジャーマンシルバー文字盤にグラン・フー・エナメルのインダイヤル、ハンドカット&ハンドブルー仕上げの青焼き針(時・分・秒表示、パワーリザーブ)。全工程においてひとりの時計師が伝統的な技法を用いた完全ハンドメイドのムーブメント(ジュエルを除く)。パワーリザーブ約72時間。年に2~3本のみ製造。

オメガの歴史的に重要なRef.2998の2012年復刻版をどれほど気に入っているか、

ウォルター・シラー(Walter Schirra)が1962年にシグマ7の飛行で着用したモデルだ。どうしてもオメガに返却する気になれなかったので、この記事を掲載した数日後に自分用の1本を購入した。この時計はお気に入りとしてすぐに私のコレクションに定着し、2016年にはその年の“最も身につけた時計”のタイトルを獲得した。2017年も半分が過ぎようとするなかそのタイトルは維持されそうなばかりか、むしろ腕につけている時間が長ければ長いほどありがたみが増していくようだ。Ref.2998の純粋な復刻版としてだけでなく、スピードマスターシリーズの最高の特徴をすべて備えたモデルとして楽しんでいる。

オメガ スピードマスター ファースト オメガ イン スペース セドナ™ゴールド

皆に愛される“FOIS(ファースト オメガ イン スペース)”のモデルであるセドナ™ゴールドのファースト オメガ イン スペースに対して、常に少し複雑な思いを抱いてきた。この時計は間違いなく豪華で、私のFOISのデラックス版である。しかし私はこれをスピードマスターから大きく逸脱したものだと常々思ってきたし、この逸脱がうれしいとは言い難い。2015年にこの時計が発表されたとき、スピードマスター愛好家のほとんどはこの時計を歓迎し、何人かはその魅力を私に伝えようと懸命に説得したが、いくつかの理由から私はその声に耳を貸すことができなかった。

第一に、1960年代のほとんどすべてのクロノグラフに対するスピードマスターの最高、最大の特徴は、その統一されたブラックダイヤルである。パンダの配色は魅力的であり、セドナ™ゴールドエディションのオパライン文字盤とブラウンのインダイヤルは特にうまくいっているが、オメガは敵の領域に侵入しているような感じもする。セドナ™ゴールドエディションを実際に手にしてわかったことは、20年前に別のモデルがこの前例を作ったということだ。

第二に、おそらくもっと重要なことだが、私はスピードマスターを貴金属にすることは少々ブルジョア的な動きだといつも感じていた。スピードマスターは手ごろな価格のスポーツウォッチだった(私は今もそうだと思う)し、間違いなくデイリーユースの時計だった。1万8000ドル(当時の日本円定価は税込198万円)のセドナ™ゴールドエディションは、オメガの顧客層の一部にとっては変わらず手ごろな価格だろうが、スピードマスターの精神に則っているとは思えない。

しかし、最近この時計と充実した時間を過ごす機会を得たことで、私の論点のいくつかは再考を迫られたと言わざるを得ない。

パンダ文字盤のスピードマスター。これに文句をつける理由があるだろうか?

セドナ™ゴールド FOISの実物を見てすぐに、その豪華な美しさに衝撃を受けた。私の時計とは似ても似つかないが、なんとも美麗だ。数年前から時計の写真を撮っていて気づいたのだが、見栄えのいい時計ほど撮影がしやすい。写真を見てもらえればわかることだろう。目の保養と呼ぶべき時計があるとすれば、この時計のことだ。

スピードマスターの存在意義に目をつむれば、この時計が相当カッコいいことは認めざるを得ない。

これはFOISのエディションのひとつ(オメガは昨年別のパンダ文字盤を発表したが、こちらはブルーとホワイトでステンレススティール製ケース)だが、私が持っているものとは似ても似つかない。親しみを感じるが、視覚、触覚的にまったく新しい体験を提供してくれる。

この新しい文字盤を無視するのは難しいが、ここに見られる要素はすべてオリジナルのFOISと同じだ(これにはもっとたくさんゴールドが使われているが)。

あまりに見た目が異なるため、このふたつの時計に共通点があることを忘れてしまいがちだ。ケースの大きさ(39.7mm)、90以上のドットが付いた外付けのタキメータースケール、時・分針のアルファ針、インダイヤルのバトン針などオメガはそのすべてをそのまま温存しているし、機械的な面でも目新しいものは何もない。どちらの時計も、ウォルター・シラーの時計に搭載されていたものとは異なるレマニアをベースとしたCal.1861を用いている。このムーブメントはオメガが1968年から使用しているものをベースにしている。

しかし今回の変更はかなり重要だ。オメガはゴールドを使用することにしたわけだが、それもただのゴールドではなく、レッドゴールドとピンクゴールドの中間のような温かみのある色調を実現するために、ゴールド、銅、パラジウムを組み合わせたユニークで独自のものを選んだ。それを引き立てるためにオメガはブラウンのセラミック製ベゼルを生み出したのだが、これもまた真っ黒なセラミックよりも豊かなニュアンスを生み出している。

そしてゴールドであるがゆえに、その特徴的な外観に加えて、この時計の最も慣れない特徴のひとつは重さである。予想されるとおり、セドナ™ゴールドバージョンは手首にずっしりと重く感じられる。これはスピードマスターのオーナーの多くが慣れ親しんでいるものではないだろう。スピードマスターの大部分(多くのバリエーションがあるわけだが)はSS製であり、古典的なモデルのいずれかを着用したことがある人なら、大体どのモデルも似たようなつけ心地だ(プレムーンとムーンウォッチのケースを比較すると若干の違いはあるが、一般的に、どの通常サイズのスピードマスターも同じような着用感だ)。

結婚指輪が伝統的なイエローゴールドとオメガ特有のセドナ™ゴールドのいい比較対象になっている。

オリジナルのFOISと、このゴールドエディションを直接的に比較することはできないが、私がこの現行バージョンに無くて寂しいと思う特徴のひとつは、時を告げる機能とクロノグラフの明確な区別である。私はこのポリッシュ仕上げされたSSとペイントされたバトン針による区別の表現は素晴らしいと思っていた。セドナ™ゴールドバージョンでは、すべての針(と植字されたロゴ)がゴールドである。もちろん、ゴールドの針と白いバトンのコントラストは、あまりに鮮明すぎかもしれない。

日本市場向けのゴールデンパンダ。Photo: Kirill Yuzh and Omega Forums

オリジナルのFOISとセドナ™ゴールドエディションで興味深いのは、前者がウォルター・シラーのRef.2998の特徴を懸命に再現しようとしているのに対し、後者はその逆方向へ自信を持って一歩を踏み出していることだ。しかし、オメガがゴールドのパンダ文字盤を持つスピードマスターに挑戦するのはこれが初めてではない。日本のコレクターは伝説のゴールデンパンダを覚えている人もいるだろう。1997年に発表された伝統的な白黒パンダダイヤルのYG製ムーンウォッチの40本限定モデルだ。正直なところ、よりソフトなセドナ™ゴールドとブラウンのベゼルおよびインダイヤルを備えた新エディションのほうが、ゴールデンパンダよりもはるかに好みだ。しかしこの時計がスピードマスターの歴史のなかでどのような位置付けにあるかを理解することは重要である。

この時計はシーホースのメダリオンと“The First Omega In Space”、“October 3, 1962”という文言が彫られたソリッドケースバックを備えている。

では、セドナ™ゴールド FOISはどんな人に向いているのだろうか。ヘリテージモデルを何本か持っていて、もうちょっと華やかなものが欲しいというスピードマスター愛好家なのか(この時計はその点では満足できる)。それともそのストーリーにはあまり興味がなく、デザインが新しくてもそうでなくても、ただ見栄えのする時計が欲しいという人なのか。本当のところはわからないが、この時計としばらく過ごしてみて確かなのは、このあまりにスピードマスターらしからぬゴールドのスピードマスターに、1万8000ドル(当時の日本円定価は税込198万円)出すような人間になりたいということだ。

ロレックスはアメリカ市場を見据え、“ル・マン”ではなく“デイトナ”を選んだ。

レースシーンとの結び付きが強まるなかで、コスモグラフ デイトナは防水性能を高め、唯一無二のレーシングクロノグラフへと進化していった。

ロレックスの歴史において、なぜコスモグラフは“ル・マン”ではなく、“デイトナ”となったのか。その由来はアメリカ・フロリダ州のデイトナビーチにあるデイトナ・インターナショナル・スピードウェイとの結び付きを強めたことにある。

ロレックスはコスモグラフ発表以前の1930年代から数々のクロノグラフを手がけてきた実績があるが、この分野では長年苦戦を強いられていた。1963年のRef.6239の登場によって、ロレックスのクロノグラフは大きな方向転換を迎える。当時のアドバタイジングで確認できるル・マンの名を冠したモデル名、ロレックスでは初のタキメータースケールを搭載したベゼルは、華やかなカーレースシーンへの参戦表明と言っていいものだった。そしてもうひとつ言えることは、このいわゆるル・マンの発表時において、ロレックスとル・マン24時間レースとのあいだには直接的な関係はなかったと思われるが、それから数十年後、ル・マン24時間レースの勝者にコスモグラフ デイトナが贈られるようになったことは、実に興味深い事実であると思う。

こちらは1970年のリーフレットだが、写真はル・マンの数年後に発売した年式の異なるデイトナ表記入りが掲載されている。文字盤には“DAYTONA”の名が入り、ベゼルはRef.6239用としていちばん最後に登場したタイプが採用されている。

1967年のリーフレットには、ル・マンのイラストが掲載されている。なぜル・マンのイラストだとわかるかというと、文字盤の12時位置に2行で“ROLEX”“COSMOGRAPH”表記が入り、タキメーターべゼルには“275”の数字が入るからだ。6時位置には“ダブルスイス”表記もある。

「未来とは、今である」。目の前のことに全力を尽くすことで未来は開ける。今の頑張りが未来を創るという意味を込めたアメリカの文化人類学者のマーガレット・ミードの名言だが、まさにロレックスのたゆまぬ努力は確かな結果を残したのだ。

古いアドバタイジングはすべてニック・フェデロヴィッチ氏が所有する貴重な資料だ。右側にあるのは1965年のデイトナ用の広告。この広告以降、ロレックスはデイトナ名を前面に打ち出している。

前述のとおり、1964年からロレックスは世界最大級のマーケットであった北米市場に向けて、文字盤に“DAYTONA”のプリントを入れたRef.6239を投入し始めるが、この戦略がマーケティングとして功を奏して、コスモグラフは成功への道筋を歩むことになる。時計、クルマ、ファッション関連を中心に、古い雑誌やポスターなどを取り扱うアド・パティーナの創業者であるニック・フェデロヴィッチ氏による、ル・マンおよびデイトナに関するアドバタイジングへの考察は以下のとおりだ。

「ル・マンの広告が最初に打たれたのは1964年ごろだと推測しますが、この時点ではデイトナとは呼ばれていなかったことは確かだと思います。翌1965年の広告から正式にデイトナというモデル名が記載されるようになりました。古いロレックスの広告を調べていくにつれて解明できたことは、掲載されている時計の年式と広告が打たれた年は一致しないことです。私たちのようなコレクターやマニアは、時計のディテールにこだわりますが、当時の広告において厳密な表現はさほど重要ではなく、そのモデルの主立った特徴を見せることに重点を置いていた傾向が見られます」

時計の説明よりも、むしろカーレースやスポーツカーの写真を巧みに使いながらイメージを刷り込むことで、ロレックスはレースの世界との距離を縮めたのだ。

このようなブランディングと並行して、1965年に登場したねじ込み式のクロノグラフプッシャーを初採用したプロトタイプ Ref.6240の登場をきっかけに、コスモグラフは段階を踏みながら機能性を高め、防水クロノグラフへと変身を遂げて独自路線を追求していく。

1966年に打たれたロレックスの広告。サブマリーナーならダイビング、ロレックスならスポーツカーなど時計とマッチした背景を使うことで、それぞれの世界を写真を使って表現した。

過酷なレースで育まれたレーシングクロノグラフ
北米市場に迎えられたコスモグラフ デイトナは、ここから新たな物語を紡いでいくわけだが、これに関連する話題とともに、ロレックスならではの防水クロノグラフが完成されるまでのヒストリーもル・マンと同様、極めて興味深い。

コスモグラフ デイトナが台頭した1960年初頭、カーレースは新たな時代を迎えて、かつてないほどの熱気に包まれていた。この時代のレーシングカーへの造詣が深く、希少なクラシックカーを販売するコーギーズのオーナーである鈴木英昭氏に、1960年代のル・マン24時間レースについて話を聞くことができた。

ル・マン24時間レースの競技はフランス中部にあるル・マン市のル・マン24時間サーキットで行われていた。写真は1925年から始まったル・マン式スタートの様子。シートベルトを閉めないドライバーが多かったため、1971年から通常のローリング式スターティングを採用するようになった。

デイトナ24時間レースは、ル・マン24時間レースの形式を踏襲しているが、高速オーバルコースの特性に加え、途中に組み込まれたテクニカルセクションが存在することからマシンやドライバーにかかる負担の大きいレースである。バンクではマシンに外方向と下方向でのGがかかることからサスペンションのセッティングにも苦心したという。

「この時代は、空気抵抗の測定精度が向上したことで、レーシングカーのデザインが劇的に変わります。ル・マン24時間レースでは、フォードがフェラーリを買収しようと試みたことから両社の対立が始まり、1960年から1965年までフェラーリが6連勝を飾る一方、フロントエンジンからミッドシップエンジンに切り替わり、戦力を増強。1966年はフォード GT40が初めてフェラーリを打ち負かして4連勝しますが、1970年には徐々に実力を高めてきたポルシェが初勝利します。1969年からレースで使用したポルシェ 917を見ればわかるように、レースの世界では当然のこととして認識されていますが、かつて大活躍したフェラーリ 250TR(テスタロッタ)のようなデザインはこの頃には一切見当たらなくなります。アメリカにおけるレースシーンはというと、1962年からデイトナ・インターナショナル・スピードウェイで開始されたデイトナ24時間レースは、まだ知名度は低かったのですが、レースの報酬が高かったことを理由に、ヨーロッパから多くのレーサーが参加するようになりました」

同じ時代、レースの世界を走り始めたコスモグラフ デイトナにおける進化の過程はレースに相通じるものがある。苛烈を極めたデイトナ24時間レースを耐え抜くためにレーシングカーはスタイリングを洗練させ、スペックを高めていった。そんなレースにふさわしいクロノグラフとしてコスモグラフ デイトナに求められたのは耐久性を高めること。特に当時のクロノグラフ全般の弱点であった防水性能の向上だった。1965年に登場したRef.6240はプロトタイプのねじ込み式クロノグラフプッシャーを採用し、1969年から登場した(1970年、71年とする説もある)Ref.6263は、それを正式に採用したモデルだ。12時位置のプリントの2行目には、防水性能を示した“OYSTER”の文字が加わる。このRef.6263の製造が1989年まで続いたことからもクロノグラフとしての信頼性の高さがうかがえる。

さらなる完璧さを求めたロレックスは、40㎜径のオイスターケースにリューズガードを与え、初の自動巻きクロノグラフムーブメントとなるCal.4030を搭載したRef.16520を1988年に発表する。文字盤の2行目のプリントには、“OYSTER”のほかにデイトナ初となる“PERPETUAL”の表記が入る。このアップデートの結果、コスモグラフ デイトナはクロノグラフという複雑機構でありながら、そのほかのプロフェッショナルモデルと同等クラスの防水性能や耐久性を手に入れた。もうひとつ、コスモグラフ デイトナとカーレースの結び付きを考察するうえで、俳優ポール・ニューマンの存在はやはり欠かせない。ご存じのように、レーシングドライバーとしても活躍した彼の腕には手巻きのコスモグラフ デイトナがよく巻かれていた。そのため彼が身につけていたエキゾチックダイヤルと呼ばれる文字盤が入るコスモグラフ デイトナは、のちにポール・ニューマン モデルと呼ばれるようになるわけだが、その人気は衰え知らずで現在も価格の高騰が続いている。

つまるところ、カーレースの世界や第2次世界大戦後にアメリカの好景気が絶頂を迎えていた北米市場に勝機をみいだしたロレックスのマーケティングは、結果論として正解だったわけだ。歴史に“もしも”はないが、ロレックスがデイトナではなく、ル・マンへの道を目指し続けていたとしたら、コスモグラフと名付けられたクロノグラフの運命は、今とはまったく違う道を歩んでいたかもしれない。

メトリック クロノ レギュレーターが夜光ダイヤルを備えて復活!

これまでにリリースされていたメトリック クロノの特別なレギュレーターダイヤル仕様は遊び心のあるカラーリングで好評を博したが、今回の新作は日中は落ち着いた雰囲気を持ちつつ、夜には大胆な変化を見せる仕上がりとなっている。

シャネル スーパーコピー新作メトリック クロノ レギュレーター ルミント(Metric Chrono Regulator Lumint)は、2023年にジェームズ・ステイシーが取り上げた前回のコラボモデルと基本的な仕様を共有している。これまでのメトリック クロノと同様、レギュレーターダイヤルバージョンも、角が丸みを帯びた36mm径のスクエアケースとケース一体型のブレスレットを備えている。ヘアライン仕上げが施されたステンレススティール製のコンパクトなケースで、ラグ・トゥ・ラグは41.5mm、厚さは10.75mmと、非常にスリムなプロポーションを持つ。
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Brew Lumint Metro
内部にはセイコーインスツル製のVK68 メカクォーツ クロノグラフ キャリバーを搭載しており、レギュレーターデザインはムーブメントの24時間表示インダイヤルを活用、AM/PMの表示で時間を読み取りやすくしている。時刻の読み取りには多少の慣れが必要だが、目盛りが明確に配置されているため、すぐに理解できるだろう。分針は通常のセンターにあり、メカクォーツムーブメントの特性上、クロノグラフの針は作動時にスムーズにスイープし、リセット時には機械式のように瞬時に戻る。時間計測はバッテリー、IC、クォーツクリスタルによって制御されている。

これまでのモデルに見られた鮮やかな色彩は一新され、黒と白のモノクロームな配色へと変化。ダイヤルの暗色プリントは、ガンメタルからブラックへと変更されたインデックスや針と組み合わさり、ブリューのこれまでのクロノグラフのなかでも最も視認性の高いデザインとなっている。さらにガンメタルカラーのプッシャーがこのモノクロームの統一感を強調し、洗練された仕上がりを演出している。そしてモデル名からも推測できるように、これは単なるホワイトダイヤルではない。時刻表示用のインダイヤルを中心に、同心円状の繊細なパターンが施されている文字盤全体が実は蓄光仕様となっており、暗闇では時計全体がブルーの光を放つという大胆な特徴を持つ。

ブリュー×Worn & Woundにょるメトリック クロノ レギュレーター ルミントの価格は549ドル(日本円で約8万2000円)。限定500本のみの販売で、今年6月からの出荷を予定している。現在、Windup Watch Shop にて予約受付中だ。

我々の考え
ときには時計にもファンサービスが必要だ。このモデルはまさにそれを体現している。ブリューウォッチが蓄光ダイヤルを初めて試したのは昨年9月のレトログラフ ルミントだった。その後の反響を見ればこの種の蓄光ダイヤルが現在のトレンドであることは明らかであり、おそらくこの試みは成功を収めたのだろう。Worn & Woundとのコラボレーションによるユニークなレギュレーター仕様のレイアウトと、同心円状のパターンを持つダイヤルデザインが融合し、このメトリック クロノ レギュレーター ルミントは暗闇での視認性を武器に、ほかにはない個性を発揮している。

Lumint Metro held in hands
そしていつものように、このモデルも幅広い手首サイズに適した絶妙なケースサイズを備えている。特に評価したいのは、新たに採用された(おそらくコストもかかっているであろう)蓄光ダイヤルを搭載しながらも、販売価格が2年前のコラボモデルと同じ549ドル(日本円で約8万2000円)に据え置かれている点だ。デザインだけでなく、価格設定もクールである。

これまでのレギュレーター3部作のなかには自分にとって完璧なカラーリングはなかったが、今回のモデルは非常にクリーンな印象を持つ。ブリューの多くのモデルに見られるレトロ調のポップなカラーデザインとは一線を画し、このモデルの持つ硬派で洗練された雰囲気は、むしろ新鮮に感じられる。情報量は適度に多く、見ていて楽しいが、デザイン全体には抑制の効いたバランス感があり、それがまた魅力的だ。正直かなり気に入っている。

新しく生まれ変わったヴィンテージCal.135、そして160年にわたるゼニスの精度追求。

2025で、創業160周年を迎えるゼニスがG.F.J.を発表した。これはかつてのタイムオンリームーブメントであるCal.135クロノメーターに、現代的な解釈を加えたモデルである。もしブランドの歴史に詳しいなら、文字盤上の3文字とシンプルなモデル名の意味はすぐに理解できるだろう。ジョルジュ・ファーブル=ジャコ(Georges Favre-Jacot)を知らなければ少々首をかしげるかもしれないが、それでもまったく問題はない。要するにこの名前はゼニスの歴史、すなわちエル・プリメロ誕生以前の時代に深く根ざした姿勢を示しているのである。

2022年、ゼニスはカリ・ヴティライネン(Kari Voutilainen)氏と協力し、復元されたヴィンテージのCal.135-Oを搭載した10本限定の時計を製作した。当時のこれらに搭載されたムーブメントは、1950年代初頭にニューシャテル天文台コンクールに実際に出品された個体である。多くのコレクターは、このきわめて生産数の少ない限定モデルを、ここ数十年で最良のタイムオンリーゼニスと見なしている。38mmのプラチナケース、コンブレマイン製のギヨシェダイヤル、そしてヴティライネンによる手仕上げのムーブメントを備えたこのリリースは大きな成功を収め、ゼニスのクロノメーターヘリテージを時計界に強く印象づけた。

今回発表されたG.F.J.において、ゼニススーパーコピー代引き 激安は2022年の限定コラボレーションをさらに発展させた。このストーリーは完成した時計そのものと同様に、ムーブメントにも深く関わる内容である。

1945年、ゼニスの技術部長であったチャールズ・ジーグラー(Charles Ziegler)は、エフレム・ジョバン(Ephrem Jobin)という時計師に、天文台コンクールの頂点を目指せるクロノメータームーブメントの開発を命じた。ジョバンは、独自の輪列配置を採用した13リーニュのCal.135を設計した。オフセンターに配置されたミニッツホイールによって、大型のバイメタル切りテンプ、“ギョームテンプ”(ブレゲひげゼンマイ付き)と大径の香箱が搭載可能となり、等時性と精度が向上した。最終的に、この“プレミアム”仕様であるCal.135-Oは天文台クロノメーターコンクールにおいて230以上の部門別最優秀賞を獲得。時計史上、最も多くの受賞歴を誇るムーブメントとなった。

“ノーマル”バージョンであるCal.135は、1948年から1962年にかけて約1万1000個が製造された。基本的には、Cal.135-Oと同一のムーブメントである。天文台コンクール用にはゼニスの精鋭時計師であるシャルル・フレック(Charles Fleck)やルネ・ギガックス(René Gygax)らが、Cal.135のなかから優秀な個体を厳選し、調整・レギュレーションを施すことでCal.135-Oへと仕立て上げたのである。

2025年に登場する新作G.F.J.において、ゼニスは1962年以来初めてこの伝説的キャリバーを製造することとなった。新Cal.135は、オリジナルの設計とサイズ(直径13リーニュ、厚さ5mm)を忠実に踏襲しつつ、ごくわずかに再設計が施されている。1万8000振動/時(2.5Hz)で駆動する手巻きムーブメントは、オリジナルの約40時間に対して約72時間のパワーリザーブを実現。トップセコンド機構を備えつつCOSC認定を取得しているが、実際にはCOSC基準を大きく上回り、日差±2秒以内の高精度を誇る。ムーブメントの受けには、ル・ロックルにあるゼニス本社の赤と白のレンガ造りのファサードをモチーフとした、特徴的な“ブリック”ギヨシェスタイルで飾られている。

G.F.J.は直径39.15mm、厚さ10.5mm、ラグからラグまでが45.75mmのプラチナケースに収められており、程よいサイズ感を備えた現代的な時計である。サイズこそ現代的だが、段差のついたベゼルやラグにはヴィンテージから着想を得たディテールが随所に見られる。

A Zenith GFJ dial macro
文字盤中央にはゴールドのパイライト(黄鉄鉱)を自然にちりばめた、深いブルーのラピスラズリが配されている。アウターリングにはムーブメントと同様、“ブリック”ギヨシェ模様が施され、6時位置に配された大型のスモールセコンドはマザー・オブ・パール製で、豊かな質感とコントラストを生み出している。面取りされたホワイトゴールド製のアワーマーカーと、40個のホワイトゴールド製ビーズによるミニッツトラックはすべて手作業で植字され、スリムなWG製の針が全体のデザインを引き締めている。

G.F.J.は160本限定で、価格は695万2000円(税込)。ゼニスブティックおよび正規販売店限定で、現在予約注文を受け付けている。

我々の考え
ヴィンテージ愛好家であり、Cal.135のファンとしてはどうしてもこのムーブメントにばかり目がいってしまう。何十年も前のムーブメントを復活させることは決して容易なことではない。多くの場合、当時の製造用工具は失われ、キャリバーに精通した時計師たちもすでに現役ではない。ブランドはこうした状況のなかゼロから開発を始めなければならず、そのR&D(研究開発)コストは莫大なものとなる。そうした事情を理解したうえで、ゼニスが最も歴史的に重要なタイムオンリーキャリバーを正統な形で蘇らせたことに、心から敬意を表したい。

A Zenith GFJ
時計自体の仕上がりも素晴らしい。明らかにG.F.J.は、内部に搭載されたムーブメントに最大限の注目を集めるためにつくられたプレミアムな製品である。もしゼニスが、よりシンプルで手ごろな価格のステンレススティール製でこの“新しい”キャリバーを発表していたなら、ほかのWatches & Wondersモデルに埋もれてしまったかもしれない。そうした仮想的なバージョンのほうが、より幅広い時計愛好家にとって商業的には魅力的だった可能性はある。しかし、今回ゼニスが選んだアプローチには大きな意味があると感じる。

G.F.J.は、いわば“ハローモデル”である。最終的に購入することになる160人のコレクターは、間違いなく大いに満足するだろう。そして残るゼニス愛好家やゼニスに興味を持つ者たちは、次の機会を待つことになる。ブランドが60年以上の時を経てムーブメントを復活させるのは、160本を製作して終わるためではない。Cal.135を搭載した新たなモデルが今後登場する可能性は高い。もし、ゼニスの現代Cal.135の第1弾かつ最も強いインパクトを放つバージョンを手に入れたいなら、このモデルこそがまさにそれだ。G.F.J.は細部まで緻密につくり込まれており、ダイヤルも実に美しい。

基本情報
ブランド: ゼニス(Zenith)
モデル名: G.F.J.
型番: 40.1865.0135/51.C200

直径: 39.15mm
厚さ: 10.5mm
ラグからラグまで: 45.75mm
ケース素材: プラチナ950
文字盤: 外周にブルーブリックギヨシェ、中央にラピスラズリ、スモールセコンドカウンターにマザー・オブ・パール
インデックス: ホワイトゴールド製アプライドアワーマーカーおよびドットミニッツマーカー
夜光: なし
防水性能: 50m
ストラップ/ブレスレット: ダークブルーアリゲーターレザーストラップ(プラチナ製ピンバックル)、ブラックカーフスキンレザー、ブルー“サフィアーノ”カーフスキンレザー付属