ルイ・ヴィトンとして、飛躍的な進化を遂げたタンブール オペラ・オートマタを発表した。

今年発表された新作はややゾッとするようなデザインだが、これは川劇(せんげき)でよく見られる、顔が一瞬で変化する中国伝統芸能のひとつ、変面からインスパイアされている。色とりどりの仮面が次々と瞬時に入れ替わり、まるで魔法のように見える仕掛けで、その技法はごく最近まで秘匿とされていた。今年はドクロの代わりに、表情を変える変面のマスク(5つのオートメーションのうちのひとつ)をセット。お面に巻き付いたドラゴンが頭を動かして、お面の額の真ん中に隠されているジャンピングアワーを出現させる演出に加え、そのドラゴンの尾はレトログラード式の分針として機能する仕組みだ。パワーリザーブは砂時計ではなく、悪霊を追い払うとされるカラバッシュ(ひょうたん)型となっている。なお時刻は、ドラゴンを模したリューズを押すと自動的に作動することによって確認することができる。カルペ・ディエムと同様にお面の片方の目はルイ・ヴィトンの花のエンブレムにちなんでおり、4枚の花びらの花は中国文化で不吉とされている、数字の4の代わりになっている。

これらの機能はすべて、カルペ・ディエムにも搭載されている手巻きCal.LV525(部品点数426点)によって実現している。46.88mmのタンブールケースは18Kピンクゴールド製、文字盤にはPGとルビー、エングレービングによるエナメル加工を施している。そしてルイ・ヴィトンはエナメル職人であるアニタ・ポルシェ(Anita Porchet)氏と、彫金師のディック・スティーンマン(Dick Steenman)氏というふたりの偉大な職人を呼び、これを実現した。プレスリリースによると、エングレービングに76時間、エナメルに60時間かかったという。文字盤のいちばん小さいパーツを彫って、塗り、焼いて、磨いたりと、大事な作業の一部を見ただけで、私は彼らの言葉を信じられる(さらに私たちの気持ちをよくするために、実は四捨五入しているのではとも考える)。100時間のパワーリザーブは素晴らしく、また手巻き時計のため機能的でもあり、超特殊なパワーリザーブインジケーターではないにしても美しい。限定モデルではないが、カルペ・ディエムの受注上限は30本までだったため、このモデルも同じようなものだと期待している。もし希望価格の52万ユーロ(日本円での参考価格は6919万円)が手元にあるのなら、いますぐ行動に移したほうがいいだろう。

我々の考え
このような時計は実際に見てみないとわからないということは、十分わかっているつもりだ。写真や動画で見ると、そのムーブメントやオートメーションに驚かされるが、この時計を本当に理解するには、実際の動き方などを見る必要がある。カルペ・ディエム同様、この時計は幅広い層にアピールするものではなく、また伝統を重んじるオートオルロジュリーのオートマトンファンに感動を与えるものでもない。しかし、花や孔雀に飽きた人にとって、ひねりを効かせたこの時計はまだ楽しみを与えてくれるに違いない。

私は京劇や変面の専門家ではないが、その芸術と時計づくりのあいだには、何か共通点があるように思う。技術は隠され、そして世代を超えて受け継がれ、いまはようやく情報がオープンになり、そして求める人が手に入れられるようになったという、そこにはたしかに共通の魔法がある。しかしときには、ただ座ってじっくりとそれを観賞するのもいいのだが、時計の知識がない状態でこの時計を見ても美しいと感じることはないのだろうか? 私はそうは思わない。

ルイ・ヴィトンは、本格的な時計メーカーとして認めてもらうべく、これまで過酷な戦いに挑んできたが、この時計にはすべての要素が詰め込まれている。そしてその域まで登りつめた技術や革新性について称賛したいが(これらは時計の外にも内にもたくさんある)、私は敬意を払いつつも、その積極性を犠牲にしていないことに最も感銘を受けた。これはまさしく“オーダシティ”なアイデアをもとに、衝撃を与えるショッキングさと、より多くの人に喜んでもらうための控えめさのあいだを縫って、洗練させていったように感じる。

基本情報
ブランド: ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)
モデル名: タンブール オペラ・オートマタ(Tambour Opera Automata)
型番: Q1EN2Y

直径: 46.88mm
厚さ: 14.42mm
ケース素材: 18Kピンクゴールド
文字盤: ブラッククロワゾネ・エナメル(有線七宝)
ストラップ/ブレスレット: ブラックアリゲーターストラップ、18KPGバックル

ムーブメント情報
キャリバー: LV 525
機能: ジャンピングアワー、レトログラードミニッツ
パワーリザーブ: 約100時間
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 2万1600振動/時
石数: 50

ジュネーブで開催された第25回ジュネーブ時計グランプリの授賞式において、

「ジェンティッシマ ウルサン」コレクションにおいて4作目となる本モデルは、デザインと創造性でウォッチメイキングの伝統の枠を押し広げるジェラルド·ジェンタ·ラボが直々に手掛けたもの。美学と構造の面において、ジェンタ氏のレガシーが一目で感じられるでしょう。このリミテッドエディションのウォッチのイエローゴールド製のケースの周りには、個別にネジ止めされた宝石ファイアーオパールが並びます。このタイムピースはクリエイティブな無限の可能性を提供するコレクションであり、独自性やエレガンスを求める人々の出発点となるというメゾンの哲学に沿っています。

デザインと個性の差別化が最優先されたこの「ジェンティッシマ」コレクションの最新作は、美の追求に対する絶え間ない努力の結晶であり、ジェンタ氏の直感的かつクリエイティブな才能と美しい宝石に対する慧眼にオマージュを捧げたもの。
ファイアーオパールは、メキシコ全土の火山の地下深くから産出され、溶岩の中に水が閉じ込められることで独特なイエローやオレンジ、またはレッドの色素が生まれます。この複雑な宝石は、地質学者を何世紀もの間、困惑させてきた特殊な化学組成からなるもの。この石の魅惑的なオレンジの色調や創造性や自信を高めるシンボルとしてのその意味合いが、ジェラルド·ジェンタのアーティスティック·ディレクター マチュー·エジにインスピレーションをもたらしました。

「このクリエーションを通じて、『ジェンティッシマ ウルサン』のクリエイティブコンセプトの境界を押し広げ、稀少な宝石をまとったアイテム提供すると共に、有機的な色や美しい宝石、そして美に対するジェンタ氏の情熱に敬意を表した」とエジは説明しています。

受け継がれる「ウルサン」のデザインのレガシー
「ウルサン」の物語は、1994年にジェンタ一家がバカンスに訪れたコルシカ島からはじまります。フランス語でウニを意味する「ウルサン」。その姿に魅了されたジェラルドはいつものように、その場で直感的に最初のデザインのスケッチを描き下ろしました。棘のある球状の外観は、ビーズで飾られた丸いケースのウォッチの形となり、本コレクションのすべてのバリエーションにおいて、ウォッチに特有の魅力を与えています。

そして30年後、「ウルサン」は、メゾン ジェラルド·ジェンタにとって奥深さに満ちた新章を切り拓きます。コレクションの4作目は、ジェンタ氏ならではのユニークな美的感覚とシンボルとしての意味を持つパワフルな宝石への魅力をさらに探求。
アステカ時代から現代にいたるまで、「ジョワ·ドゥ·ヴィーヴル(生きる喜び)」、幸福、創造性の高まりを象徴するファイアーオパール。これらの宝石の純粋な美しさを超えて、その意味は、ウォッチデザインへのジェンタ氏の直感的かつパーソナルなアプローチと共鳴します。

コレクションの中で最も華やかなモデルであり、ファイアーオパールの暖かな色調を反映するオレンジのカーネリアン製のダイアルを配した「ジェンティッシマ ウルサン ファイアーオパール」。それを構成する曲線のすべてが、自信とエレガンス、そして内なる力強いエネルギーを物語ります。

ジェラルドの妻 エヴリン·ジェンタにとって、「ウルサン」は今日にいたるまで、お気に入りのデザインの1つ。「『ウルサン』は、ジェラルドが最も誇りに思っていた数少ないクリエーションの1つ。実際、彼はそれをほとんど売りたがらず、親しい友人や顧客のためだけにごく少量しか製作しなかった。新作『ウルサン ファイアーオパール』を見ると、ジェラルドのことを沢山想い出す。彼がどれほどウォッチを宝石で飾ることを愛し、それをさまざまな光源を当てて眺めるのを楽しんでいたかを。宝石が光捉える多様な姿は、彼にとって無限とも言える魅力の源であり、美の定義そのものだった」と彼女は語ります。

鮮やかな美学を通してジェンタを表現
このウォッチのデザインは、ジェラルドのレガシーを鮮やかなデザインを通して継承すると共に、人々の視線を捉える遊び心と一目で分かる情熱的な輝きを放ちます。

オリジナルのデザイナーの直感的でクリエイティブなアプローチを受け継ぎ、感覚的にデザインされた新作「ウルサン ファイアーオパール」。これは、卓越したデザインをタイムレスなエレガンスや洗練性と組み合せることの難しさを知る人々の心を掴むでしょう。

この石は、芸術家や音楽家、そして創造性への刺激を求める人々と歴史的に結び付いており、予期せぬものをアートへと昇華させることを象徴しています。ジェンタ氏ならではのデザイン原則は、現代的なひねりを加えられながらもいたるところに見出すことができます。ダイアルはオレンジのカーネリアン製で、ジェンタ氏のシグネチャーのフォルムであるファセットカットを施したクリスタルも、ケースのわずかに八角形を帯びた内側の縁にあしらわれています。

直径約36 mmのイエローゴールド 3N製ケースには、ガラスブラスト仕上げが施され、同じくイエローゴールド 3N製のピンで個別に1つずつケースにネジ止めされた137個のファイアーオパールの輝きとコントラストをなします。

「ラ·ファブリク·デュ·タン」のマスターウォッチメーカー ミシェル·ナバスとエンリコ·バルバシーニは、
「デザインを引き立たせるため、ディテールにいたるまで細心の注意を払ってこの製品を作り上げた。自動巻き『ゼニス エリート』ムーブメントのために、18Kイエローゴールド製の専用ローターを設計した」と語ります。

【仕様】
ジェンティッシマ ウルサン 36 ファイアーオパール
品番:EECE01A1
発売:2025年5月

ケース:イエローゴールド 3N
・イエローゴールド3N製のピンで個別にネジ止めされた137個のファイアーオパール
・ケースサイズ:36.5 mm/厚さ9.64 mm
・防水:30 m
ダイアル:5分ごとのマーカーにイエローゴールド 3N製のドットをあしらったオレンジのカーネリアン
針:イエローゴールド 3N
ムーブメント:キャリバーGG-005(再設計されたローターを装備した「ゼニス エリート」)
・パワーリザーブ – 振動数:~50時間 – 50 Hz
・ムーブメントサイズ:直径25.6 mm/厚さ3.65 mm
・部品数:126
ストラップ:ブラックアリゲーターレザー(ラグ幅17.5 mm)

ジェラルド·ジェンタについて

メゾン「ジェラルド·ジェンタ」の礎となっているのは、直感と熟練技の革新的な対話であり、そこでは技術が想像力を支え、芸術性は慣習の枠を超えて解き放たれています。その核心にあるのは、クリエイティブな創意工夫へのコミットメントであり、大胆なアイディアがタイムレスなウォッチメイキングのステートメントへと生まれ変わります。メゾンは、大胆不敵な実験と絶え間ない再発明を通じて、独自のエレガンスを提唱します。それは、意外性と洗練性を兼ね備えた手首上のアートを目指すという美のビジョンです。

仕様指示や妥協とは無縁の、制約のないものづくりを目指す強い情熱に突き動かされてデザインに取組んだジェラルド·ジェンタ氏によって、1969年にスイスのジュネーブで設立されたメゾン。この独立性のおかげでジェンタ氏は、独創的なデザインと完璧なバランスを保ったフォルムと機能への愛で特徴付けられる、自らの先見性あるデザイン言語を完全に表現することができたと言えるでしょう。

メゾンは、2023年、「ラ·ファブリク·デュ·タン ルイ·ヴィトン」の支援とマチュー·エジのアーティスティック·ディレクションの下で復活を遂げ、その最もアイコニックなクリエーションの1つである「ジェンティッシマ ウルサン」を再解釈することで、再びスポットライトを浴びました。このリエディション版は、ジェンタ氏のオリジナルビジョンの豊かさと洗練を反映しています。どの作品も、印象的なコントラスト、予想外のテクスチャー、さりげない8角形などあらゆるデザインに組み込まれた隠れた幾何学模様があしらわれています。

ジェラルド·ジェンタは、ブランドのアヴァンギャルドなヘリテージを守りながら現代性を取入れたコレクションを通じて、ウォッチメイキングの限界を押し広げ続けます。あらゆるディテールに意図があり、あらゆるデザインが表現力を持つという哲学の具現化に取組むメゾンは、時をキャンバスに変え、トレンドやとりわけ時自体を超越した、ウェアラブルなアートを生み出します。

「ラ·ファブリク·デュ·タン ルイ·ヴィトン」について

「ラ·ファブリク·デュ·タン ルイ·ヴィトン」は、先見の明を持つ2人のマスター·ウォッチメーカー、ミシェル·ナバスとエンリコ·バルバシーニによって創設されました。スイスのジュネーブ州メイランにあるこのアトリエでは、デザイナー、エンジニア、職人たちが一堂に会し、卓越性の探求というルイ·ヴィトンの使命を20年以上に渡り守り続けています。ジェラルド·ジェンタやダニエル·ロートも傘下に持つこのヒューマンスケールのマニュファクチュールは、卓越した技巧と革新的なノウハウを融合させ、常に新しい大胆さをクリエーションにもたらすことで、比類なきウォッチを生み出しています。つまり「ラ·ファブリク·デュ·タン ルイ·ヴィトン」は、時計作りにおける主要な機能的および美的構成要素を網羅し、3つのメゾンの時計製造を統合しているのです。専門分野は「ラ·ファブリク·デ·ボワティエ」、「ラ·ファブリク·デ·カドラン」、「ラ·ファブリク·デ·ムーブマン」に分かれ、伝統的な技術と最先端のテクノロジーを融合することで、「ジュネーブ·シール」を取得した作品を含む卓越した仕上げのウォッチが生み出されています。

ヴァシュロン・コンスタンタン トラディショナル・トゥールビヨン・レトログラード・デイト・オープンフェイスが登場。

今の時計業界はオープンダイヤルの真っ只なかにいると感じる。

A.ランゲ&ゾーネ ルーメンコレクションの成功に始まり、サファイアクリスタル文字盤を備えたパテックの新作、5316/50Pの登場に至るまで、再び流行したともいえるものに皆飛びついているようだ。

ヴァシュロン・コンスタンタン トラディショナル・トゥールビヨン・レトログラード・デイト・オープンフェイスのイメージ
しかしヴァシュロン・コンスタンタンにとって、この素晴らしいオープンダイヤルやオープンワークのムーブメントをつくることは、以前と変わらない体制であるようだ。盛り上がりを見せるWatches&Wondersのなか、新作のトラディショナル・トゥールビヨン・レトログラード・デイト・オープンフェイス(なんと口数の多いことか)のリリースは、あまり注目を集めることはなかった。今こそそれを訂正するときだ。

時計の世界で本格的な活動を始める前から、ヴァシュロン・コンスタンタン最大の強みのひとつは、ブランドの歴史を踏まえつつも、それにとらわれずに1歩先を行く優れたテクニカルウォッチを作ることだと、私は信じて疑わない。ただ昨年発表された222やオーヴァーシーズの需要(ほかの高級ステンレススティール時計のように)に対して、人々はヴァシュロンが得意とするものを見失っているのではないだろうか。

ヴァシュロン・コンスタンタン トラディショナル・トゥールビヨン・レトログラード・デイト・オープンフェイスのイメージ
今回のWatches & Wondersで、ヴァシュロンがもう1型、SSでできた別の222を発表すると確信(というより希望を抱く)していた人は、マーケティングの観点に立つと、それが信じられないほどのミスだったということを理解していないだろう。もちろんすぐに売り切れてしまうが、イエローゴールドの222のウェイティングリストはおそらく孫の代まで引き継がれそうなほどの状態だし、世界3大ブランドの生産数はすでに驚くほど限られている。ではどうすればいいというのだろう? 代わりにヴァシュロンは基本に立ち返った。少なくともその基本とは、独自のやり方で、複雑なものをつくるということである。

ヴァシュロン・コンスタンタン トラディショナル・トゥールビヨン・レトログラード・デイト・オープンフェイスの文字盤
新しいトラディショナル・トゥールビヨン・レトログラード・デイト・オープンフェイス(略してTTRDO)は、この複雑機構が成功したというだけでなく、このブランドが得意とするもうひとつの分野である視認性においても成功したと思う。優れた視認性という点において、既存のオーヴァーシーズ・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダー・スケルトンは、オープンフェイスダイヤルを採用した私のお気に入りの時計だ。新しいTTRDOは完全なるスケルトンダイヤルではないにせよ、その流れを汲んでいる。本来であれば技術的なことから始めるべきなのだろうが、搭載されたすべてを見ることができるオープンダイヤルを無視してしまうのはおかしいためここから始めよう。

ヴァシュロン・コンスタンタン トラディショナル・トゥールビヨン・レトログラード・デイト・オープンフェイスの文字盤
ヴァシュロン・コンスタンタン トラディショナル・トゥールビヨン・レトログラード・デイト・オープンフェイスの12時位置寄り
ヴァシュロン・コンスタンタン トラディショナル・トゥールビヨン・レトログラード・デイト・オープンフェイスの6時位置寄り
オープンフェイスのサファイア文字盤には、文字盤全体を囲むレイルウェイミニッツトラックと、文字盤の8時36分から3時24分まで扇形に広がったギヨシェ装飾があり、それに沿うようにレトログラード式の日付表示をセットしている。またゴールド製のバーインデックスを、文字盤の空いたスペースに覆いかぶせるようにレイルウェイ上に配置。レイルウェイをはじめ、フルーテッドの刻みが設けられた裏蓋、スリムなベゼル、ファセットされたドフィーヌ針が、伝統的な、いやトラディショナル(コレクション)を構成している。レトログラード式のデイト表示は、18Kの黒塗りのゴールドでつくられた針と白い矢印の先端で指す。そして文字盤のオープンフェイスデザインに合わせるべく、文字盤上部のデイト表示には、手作業によるスレートグレーの表面処理が施されているのを確認できる。最も配慮が行き届いていると思うのは、手彫りのギヨシェで装飾した地板の下部からわずかに見える文字盤と、見事にマッチしている点だ。完全なる文字盤は存在しないのに、そうあるかのように見せる錯覚はさすがだ。さらに光の加減によってはグレーからブラウンに変化する仕上げなど、見る人を飽きさせないのもポイントだ(もちろん手伝いも必要ない)。

ヴァシュロン・コンスタンタン トラディショナル・トゥールビヨン・レトログラード・デイト・オープンフェイスの裏蓋
さらに近くで見ると時計の核心に触れることができる。ジュネーブ・シールが刻印された自社製ムーブメント、2162 R31は、242点の部品を用いて自動巻きのためのペリフェラルローターを実現。ムーブメントの厚さは6.25mmで、ヴァシュロンを代表するふたつの複雑機構、レトログラードデイトとトゥールビヨンを搭載し、トゥールビヨンのキャリッジにはスモールセコンドを配している。文字盤側と裏側には、NAC処理でスレートグレーに仕上げたジュネーブストライプを、地板には面取りを施した見ごたえのあるディテールを備えているほか、ムーブメントは1万8000振動/時で動作し、約72時間のパワーリザーブを誇る。

ヴァシュロン・コンスタンタン トラディショナル・トゥールビヨン・レトログラード・デイト・オープンフェイスの裏蓋
ヴァシュロン・コンスタンタン トラディショナル・トゥールビヨン・レトログラード・デイト・オープンフェイスのマルタ十字をかたどったクラスプ
直径41mm、厚さはわずか11.07mmだ。18Kピンクゴールドのラウンドケースとラグのあいだに段差を設けることで、驚くほどよくなじんでいる。Watches & Wonders中の数あるアポイントメントのなかで、私はこの時計を腕に巻いたまま、ほかのヴァシュロンの時計の撮影に移ってしまうほどに。

ヴァシュロン・コンスタンタン トラディショナル・トゥールビヨン・レトログラード・デイト・オープンフェイスのリストショット
もう2度と犯さない失敗だ。とはいえ、最終的にどんな値段になるかは別として、すぐに手に入れることはできないと確信しているため、予定より少し長く待つことには何の抵抗もない。

ルイ・ヴィトン(LV)時計部門の指揮を執って間もないアルノー氏だが、すでに波紋を呼んでいる。

ジャン・アルノー氏は、ルイ・ヴィトンの時計部門でマーケティングおよび開発ディレクターを務めている。2021年からの短い任期のあいだに、彼は時計業界で大きな話題を呼び、業界をよりよい方向に導くために存在感を発揮すると同時に、決して過去を軽視していないことを証明した。

LV時計賞の設立や、ダニエル・ロートとジェラルド・ジェンタの両ブランドがラ・ファブリック・デュ・タン(ルイ・ヴィトン ウォッチが所有・運営するマニュファクチュール)を通じて復活するという最近の発表に、彼の手腕のほどを垣間見ることができるだろう。

A collection of 7 watches with a range of differently designed and colored dials and straps
それがアルノー氏の日常なのだ。そしてオフの日も時計のことを考え続けている。ルイ・ヴィトンスーパーコピー時計代引きまだ24歳だが、すでに本格的な時計コレクターであり、熟練した愛好家もうらやむような品々を所有する。

A watchmaker works diligently on hand-painting a watch dial
Wide exterior shot of a building with a sign to the right of it that reads “La Fabrique Du Temps Louis Vuitton”
ラ・ファブリック・デュ・タン ルイ・ヴィトン

Interior wide shot of a watchmaking studio with various watchmakers sitting at desks in an open floor plan office building
ルイ・ヴィトン ウォッチメイキングスタジオ

彼のコレクションは、LVの難解な旧作からアンティークのパテック、さらには特別なランゲまで、多岐にわたる。アルノーの収集哲学の核心に迫流この動画を、どうかご覧いただきたい。

さぁ、ジャン・アルノー氏とのTalking Wathesへようこそ。

ルイ・ヴィトン ワールドタイマー LV-I
The Louis Vuitton World Timer LV-I wristwatch on an ornately decorated background
ここにご紹介するのは、LVが初めて製造した量産モデルだ。アルノー氏が入社した時に手に入れたもので、数種類の複雑機構を備えたクォーツウォッチだ。彼が言うように、この時計はLVが時計を作るのをやめるきっかけになった時計だ(LVMHが存在する以前)。ムーブメントはIWC製で、今でもよく身につけている彼のコレクションの中核を担っている。

F.P.ジュルヌ オクタ リザーブ・ド・マルシェ(真鍮製ムーブメント プロトタイプ)
F.P. Journe watch with yellow dial on an ornate background
このジョルヌは見かけによらない。驚きは裏返したときにやってくる。この時計はプロトタイプで、3本しか存在しないことが判明している。アルノー氏は購入前にこの時計の真贋について不安を抱いていたが、フランソワ・ポール本人に時計を見せたところ、この時計が本物で特別なものであることがわかったそうだ。

ヴィンテージのパテック フィリップ Ref.10
このパテックはアルノー氏にとって非常に重要なものだ。1920年代のもので、この仕様でダイヤルにパテックの刻印があるのは私たちが知る限りではこの時計だけだ。HODINKEEでは多くのパテックを見ているが、これほど古いパテックを手に入れることは、まずない。

パテック フィリップ パーペチュアルカレンダー・クロノグラフ Ref.3970P 第2世代
これはアルノー氏にとって、“コロナ禍の掘り出し物”と呼ぶにふさわしいものだった。彼はある特定の仕様のRef.3970を探し求め、オンライン上の底なし沼の奥深くまで入っていった。この時計は特別な個体(そしてプラチナ製)だが、狩りのスリル、追跡のスリル、そしてアルノー氏が持つ真の収集本能を表している。

A.ランゲ&ゾーネ サクソニア フラッハ Ref.205.086
このランゲはアルノー氏がブランドを発見するきっかけとなったモデルだ。彼はこの時計を最も“風変わりな”ランゲと呼んでいる。また、この時計がカクテルウォッチであることを周囲が説得しても、彼はこれを日常使いできる時計だと考えている。

クレヨン エニウェア Only Watchモデル

もちろん、お待ちかねのOnly Watchのモデルも紹介しよう。このクレヨンのエニウェアは日の入りと日の出の時刻を表示する。モネの絵にインスパイアされたダイヤル(ただしクレヨンはどの絵かは明言していない)は、世界にひとつしかない超スペシャル作品のひとつだ。

ルイ・ヴィトン エスカル ワールドタイム ミニッツリピーター カスタム仕様

そして今回もまたひねりを加えたユニークピースを取り上げたい。ラ・ファブリック・デュ・タン(La Fabrique du Temps)のエンリコ・バルバジーニ(Enrico Barbasini)氏は、アルノー氏のためにこのLVワールドタイムの別仕様を作った。この時計の通常モデルは手描きだが、この時計はジュネーブ様式のエナメルで、オーナーのためにいくつかのムーブメントのアップデートが施されている。

パテック フィリップ “T2” モジュール式計時システム

最後にもっと大きなものをお届けしよう。パテックのT2モジュール式計時システムだ。アルノー氏の腕には似合わないが、パテックがクォーツ式計時装置に本格的に取り組んだことを象徴するモデルである。この時計はモジュール式で、ドイツの原子力発電所で数十年使用されていたものだ。近い将来、アルノー氏のオフィスや自宅に飾られることになるだろう。置き場所があればどこでも。

今年発表された“シャネル インターステラー カプセル コレクション”には、階段状のユニークなケースを持つモデル。

マドモアゼル シャネルが一生懸命に時刻を教えてくれる様子と記事の最後を読んで、どうか笑顔になって欲しい。

ダイヤのないオーソドックスなシャネル マドモアゼル J12 ラ パウザ。

今年発表された“シャネル インターステラー カプセル コレクション”には、階段状のユニークなケースを持つモデルや、ダイヤルを夜空に見立てて星をちりばめたものなど、J12からも多くの時計が登場した。そんななか、実は同カプセルコレクションに属していない、J12の名を持つ新作がこっそりと登場している。しかも公式ウェブサイトのどこにもそのアイテムのページがない。そんな不思議なモデルがマドモアゼル J12 ラ パウザだ。

同モデルはJ12の特徴であるブラックとホワイトの2カラーのみで展開。やはり最初に目に入るのは、一般的な針の代わりにセットされた、横を向いたマドモアゼル シャネルだろう。両腕がそれぞれ時分針となった2針ウォッチで、ちょっとわかりにくいもののどちらが時針・分針なのかは腕の長さで判断できる。

マドモアゼルは、ボーダーカットソーにフロントボタンをあしらったセーラーパンツ、そのパンツのカラーにあわせたハットという、マスキュリンな装いに身をつつんでいる。時間によっては両腕が重なったり、あるいはパンツの下に隠れてしまったりと、時間を確認するたびに違う表情を見せてくれる。

実は本作は、昨年発表されたマドモアゼル J12 ラ パウザのダイヤを廃したバージョンである。前作は宝石がセットされていたため1500万円近くとかわいくない値段だったが、今回は各145万2000円(税込)と比較的手が届きやすい。ダイヤ無しを望む声が多かったのだろうか? なんにせよきちんとオーソドックスなモデルも製造してくれたことに感謝したい。

ケース径は38mm、防水性能は200m、搭載ムーブメントはCal. 12.1と、レギュラーで展開しているJ12とスペックは同様。ケース素材はもちろんシャネルの十八番ともいえる、傷のつきにくい高耐性セラミックを採用している。ケニッシ社製ムーブメントCal. 12.1はパワーリザーブを約70時間を確保。ローターの丸い形状は、シャネル ウォッチメイキング クリエイション スタジオが描いた“完全な円”に基づいてデザインされている。

Cal. 12.1。ほかの38mmのJ12と同様のキャリバーだが、本モデルはカレンダーがなく、石数は28から27になっている。

ファースト・インプレッション
私は(まだまだ)時計初心者なので、モデル名のラ パウザにどんな意味が込められているのかを知らない。だからまずはこの由来を軽く調べてみることにした(マドモアゼルは理解しているつもり!)。

どうやら、1930年にマドモアゼル シャネルが完成させた、フランス・リヴィエラの“ラ パウザ”と呼ばれた別荘を指しているようだ。この建物はマドモアゼル自らが建物の考案から建設、内装のデザインまで行った。ラ パウザという名前はイタリア語で休憩を意味し、マドモアゼル シャネルはこのヴィラを休憩の地として20年以上利用したそうだ。1954年、彼女はラ パウザを売却するも、2015年にシャネルがこの土地を買収している。

ラ パウザの名を冠するアイテムは、その別荘にちなんだ(アイリスの)香り、色味に仕上げられたフレグランスやコスメなど、時計だけにとどまらない。土地を買い戻した経緯もあり、このメゾンがラ パウザというヴィラをどれだけ大切にしているかがわかる。

初作のマドモアゼル J12(完売)。©️CHANEL

ここで文字盤に配された彼女に戻るのだが、ボーダーカットソーにパンツというルックは、ラ パウザで撮影された写真の中のマドモアゼル シャネル自身から着想を得ているという。なお初作のマドモアゼル J12(ダイヤはない)はシャネルのスーツとカンカン帽に、ヒールを履いたマドモアゼルがデザインされている。これはきっと、パリで過ごす彼女を描いていたのだろう。

さて、時計自体についても触れておこう。質感や触り心地、重さ、装着感についてはレギュラーのJ12と同じで、そこそこの重量感があり、腕につけるだけで存在感を放つ。そしてシャネルはただ単に文字盤にロゴを入れただけの時計を作っているのではなく、ムッシュー ドゥ シャネルやボーイフレンドのハイエンドコレクションに至るまで、本格的ウォッチメイキングに取り組んでいるブランドである。J12も一見普通のファッションウォッチに思えるが、美しくポリッシュされたケース、ケニッシ社製の信頼性の高いムーブメント、200mの防水性など、そのウォッチメイキングのレベルの高さは時計愛好家も納得のいくものだと思っている。

初めてみたときに気になったのは視認性だ。マドモアゼル シャネルが文字盤の上に立っていて、しかも5・6時位置はインデックスすらないときた。分針(右腕)は一番上に設置されているからいいとして、5~6時の計時はあやふやになるのでは? と思った。結論からいうと4時30分から5時30分前くらいまでは正直わかりずらかった。だがここでラ パウザの意味を振り返ろう(記事をスクロールして少し戻って)。そう、あくまでもマドモアゼルはリラックスするためにラ パウザというヴィラを建てたのだから、せかせかと時間に追われることなく(たった1時間だが)その時間帯は過ごそうではないか。そう思うことにした。

そして最後は、時計自体とは関係ないのだが、時計をつけてもらったエディターの佐藤がこの日着てきたカットソーも彼女と同じボーダーだったため(打ち合わせはしていないけど、撮影のために選んできたのかな?)シンクロしたリストショットが撮れた話で締めくくりたい。何がいいたいかというと、マドモアゼル シャネルと一緒のスタイリングで合わせるのも断然アリだということ!

基本情報
ブランド: シャネル(Chanel)
モデル名: マドモアゼル J12 ラ パウザ(Mademoiselle J12 La Pausa)
型番: H7609(ブラック)、H7481(ホワイト)

直径: 38mm
ケース素材: 高耐性セラミック×SS
文字盤: ブラックラッカー、ホワイトラッカー、ともにマドモアゼル シャネルのイラスト
インデックス: アラビア数字
防水性能: 200m
ストラップ/ブレスレット: 高耐性セラミックブレスレット、SS製3重折りたたみ式バックル

ムーブメント情報
キャリバー: 12.1
機能: 時・分表示
パワーリザーブ: 約70時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 27

価格 & 発売時期
価格: 各145万2000円(税込)