時計を手にするとき私が一番に考えるのは、

アラン・“ハマー”・ブロア(Alan “Hammer” Bloore)氏が時計を集め始めたのはまだ子供の時分からであり、最初の時計は貯金して買ったセイコーのダイバーズだったという。彼は生来のスポーツマンであったが、2000年代初頭にボート事故で腰から下が麻痺した。当時、彼はすでにヴィンテージのミリタリーウォッチやダイバーズウォッチのコレクターであり、“パネリスティ”のような初期のコレクターコミュニティの一員でもあった。そしてこの事故は、彼の時計への興味をさらに強固なものにした。

「これらの時計を手にするとき私が一番に考えるのは、今が何時かということではなく、その時計が語る物語についてです」と、ハマー氏は言う。「時計への愛がなかったら、私はどこに情熱を見出すことができたでしょうか。時計は私という人間を作り、世界中を巡り、私の人生を変えるような友情をもたらしてくれたのです」

アラン・“ハマー”・ブロア氏

そして今、ハマー氏が時計を売却する時が来た。現地時間の12月7日(木)にニューヨークのサザビーズで行われるセールを皮切りに、“ハマー コレクション”の時計約60点がオークションのハンマーにかけられる。

ハマーのコレクションの大部分はパネライとヴィンテージロレックスだが、サザビーズのライブ中継やオンラインカタログでは、パテックやインディーズブランド、その他のブランドも目にすることができる。

ハマー コレクションより、オーストラリア海軍に納入されたRef.5510。

特に注目すべきは、オーストラリア海軍のために作られたハマー氏所有のビッグクラウン Ref.5510だ。彼はオーストラリア人であり、このビッグクラウンは、軍用時計としての実績を持つ素晴らしく真っ当なモデルである。さらに時計だけではなく、オーストラリア海軍の制服やフィールドノート、シガレットケースやノーズクリップまでついてくる。箱や書類のことは忘れよう。このセットは、“フルセット”という言葉にこれまでとは違った意味を与えてくれるものだ。

パネライ Ref.PAM21

ハマーの膨大なパネライ コレクションのなかで、とりわけ注目すべきはRef.PAM21だろう。これは1997年に発表されたプラチナ製の限定モデルで、パネライによれば、第2次世界大戦でイタリアのフロッグマン(潜水士)が着用した伝説的なロレックス Ref.3646にインスパイアされたヴィンテージムーブメントを使用しているという。パネライがヴァンドーム(現リシュモン)に買収された直後に発表した最初のモデルで、60本すべてが数週間で完売した。

また、パネリスティの10周年を記念して限定発売されたパネライ Ref.PAM360もあり、これはハマーがデザインに携わった時計でもある。彼が持っている個体のシリアルは1/300で、裏蓋には“Hammer”と刻印されている。

時計自体のストーリーにとどまらず、ハマーに関するストーリーもまた、彼のコレクションの醍醐味なのである。ブロアは過去20年間、収集家のコミュニティに欠かせない存在だった。最近、彼は同じオーストラリア仲間であるフェリックス・ショルツ(Felix Scholz)氏とアンディ・グリーン(Andy Green)氏らとともにOT: The Podcastに出演し、彼のコレクターとしての軌跡を語った。 彼が2000年代初頭に事故に遭ったとき、世界中から100人以上のコレクターが彼を訪ねてきた。彼が言うには、これが最初の本格的な時計愛好家の集まりだったそうだ。彼の手首に“Paneristi.com”のタトゥーが彫られているほど、このコミュニティは彼にとって大きな意味を持つ。ハマーの話やヴィンテージウォッチに興味があるならば、全エピソードを聞く価値があるだろう。

ハマーは事故に遭ったのちも、常に前向きに生き続けてきた。それは、彼が20年以上にわたって関わってきたコレクターたちのコミュニティによるところが大きい。ハマーのストーリーは、時計収集の素晴らしさを思い出させてくれるものである。

ニューヨークで行われるオークションの模様は、今週末にお伝えする。

カルティエのサヴォアフェールは、すべてそのデザインのために存在する。

ウォッチメーカーとして培ってきた製造技術でさえも、このメゾンは自らの審美眼にかなう時計やムーブメントを生み出すことを主な目的としてしまう。顕著な例が、近年増えているスケルトンウォッチたちだ。

カルティエ「TIME UNLIMITED」。10月1日、最終日まで大盛況のうちに幕を閉じた近年最大のカルティエ ウォッチイベントは、ファンならずともメゾンの時計の魅力を発見する機会となっただろう。ありがたいことに僕もその一役を担わせていただき、クロノス日本版編集長の広田雅将さんと実施している「コノサーズトーク」の公開動画収録を、会期最終日に江口洋品店・時計店オーナーの江口大介さんをお招きして行った。

「TIME UNLIMITED」をとおして、カルティエのウォッチメイキングの軌道を俯瞰する
 このイベントは示唆に富んだもので、大まかには4つのゾーンに分かれてカルティエ ウォッチについての理解を深めることができた。まずは歴史を体感できるムービー、代表的デザインの時計展示、4つのピラーとなるコレクション、そしてラ・ショー・ド・フォンでのウォッチメイキングを学べるコンテンツが用意されていた。僕は、やはり時計の実物展示に最も多くの時間を費やして見学したのだが、カルティエがウォッチメイキングにおいてどういう変遷を辿ってきたのか、企業としてどういう時期にどんな時計が製造されてきたのかを俯瞰することを試みた。カルティエ ウォッチは、1904年のサントスに始まり、1917年のタンクで明らかにユニークな時計づくりのスタンスを確立する。当時メゾンを率いていた3代目当主ルイ・カルティエが、自身の腕時計への熱の高まりを思いのままに表現していったのが最初期で、これは1940年ごろまで続くいわばヒストリーの序章にあたる。この時代のテーマは端的にいうと、「アール・ヌーヴォー的豪奢なものからの脱却」であり、ミニマルさを堅持しつつ、貴金属を折り曲げ、叩いて成形していくジュエラーとしてのケース加工技術がカルティエデザインを実現する要だった。当時の生産数は多くて年間100本台、現存するものとなるとさらに数が少なくなる。実は「TIME UNLIMITED」で目にできたもののなかには、オークションピース級の時計も含まれていたのだ。

ルイ・カルティエ後の激動の時代
さて、ルイ・カルティエ後の第二章は本当にざっくり分けると1960年代〜2000年代を指すことになるだろう(1950年代はほとんど目立った動きがなかった)。別会社として存在していたロンドン、ニューヨーク支店で独自のデザインが生まれたり、カルティエの経営権が創業家から移ろって一時大量の“安物・偽物タンク”が出回ったりと、激動の時代を迎える。

そこから1972年、ジョゼフ・カヌイ率いる投資会社の元で再建が図られ、1973〜1985年のルイ カルティエ コレクション、1998〜2008年のCPCP(コレクション プリヴェ カルティエ パリ)で、ルイ・カルティエ時代を思わせるシェイプを持った時計たちが甦った。カルティエが有する豊かなヘリテージの価値を十分に理解していた経営陣は、70年代から展開されたマスト タンクなどマス向けの商品も生み出す一方で、メゾンらしい希少なクリエイションを継承することを忘れなかったのだ。

アンディ・ウォーホルやイヴ・サンローラン、モハメド・アリらがこぞってカルティエのタンクを着用して、一気にプレミアムな時計としてのの地位を確立したのも包括的な戦略の賜物だ。便宜上、第二章としたこの半世紀近い時期は、ここだけでいくつものチャプターに分けられるのだが、本稿でお伝えしたい第三章に行き着きそうにないので今回は割愛させていただく。ともあれ、現代にカルティエ ウォッチを繋いだ激動の時代であり、アイコンであるタンクもサントスも第二章での成功なくしては失われていた時計だっただろう。

2001年、カルティエマニュファクチュール設立から始まる新章

サントス ドゥ カルティエ

Ref.CRWHSA0015 462万円(税込) SSケース(LMサイズ)、47.5 x 39.8mm、手巻き。

やっとたどり着いた第三章は、2001年以降のモダン・カルティエの時代。そう、メゾンがマニュファクチュールを設立した年から始まる物語は、外装の巧みな製造技術でウォッチメイキングを確立したカルティエが、ムーブメントまで内製化を図って何をなそうとしているかが軸になる。2000年代の時計業界は、ETAのエボーシュ提供問題によりムーブメントの自社製化が盛んになった時期であり、自社製=価値が高いという図式も確立された時代だ。実際は、一概にそんなことは言えないのだが、とにかくブランディングのための「インハウス」が各所で踊り、何をもって自社製とするのかは現在でも続く論争のタネにもなっている。

とはいえ、カルティエは違った。根強い開発の結果、2010年にCal.1904 MC、2015年にCal.1847 MCを生み出すのだが、それにとどまらず、2009年より「オート オルロジュリー」コレクションの展開をスタート。文字通り、ハイエンドウォッチメイキングの分野に乗り出したのだ。カルティエといえばメンズ用腕時計の始祖という印象も強いが、文字盤やムーブメントが浮遊しているように見えるつくりが特徴のミステリークロックの製作でも有名。複雑な輪冽構造を開発する技術力を、あくまでデザイン的な驚き、優美さのために費やすのがカルティエ流なのだ。

このスタンスは、オート オルロジュリーコレクションでも遺憾なく発揮され、ミステリークロックを腕時計で実現したロトンド ドゥ カルティエ アストロミステリアス(2016年)や、昨年大きな話題呼んだマス ミステリユーズなどはその最たる例と言える。そして、その一方で近年のカルティエが注力するムーブメントのスケルトナイズこそが、マニュファクチュールを設立して以降のカルティエがたどり着いたお家芸なのではないかと考えている。僕がいま、何より熱狂しているのも、カルティエのスケルトンモデルであったりもする。

ブランパンからフィフティ ファゾムス誕生70周年を記念するモデルが発表された。

第3弾はヴィンテージのオリジナルモデルのなかでも特に希少なMIL-SPECモデルにオマージュを捧げたモデルだ。知る人ぞ知るリファレンスが選ばれたのには理由があった。

名は体を表すという。であるなら、ブランパンのフィフティ ファゾムスほど、自身を明確に語ったモデルはないだろう。1953年に誕生したフィフティ ファゾムスは、水深の測定単位であるファゾム(1ファゾム=1.8288mに相当)になぞらえ、50ファゾム、つまり約90mもの防水性能を有していることを意味しているのだ。

この時計の開発にはふたりの重要人物が登場する。ひとりは当時ブランパンのCEOで自身もダイビング愛好者だったジャン=ジャック・フィスターだ。あるとき南仏でのダイビング中に経過時間を間違えたことによるエア切れを体験し、ダイバーズウォッチの開発に取り組み始めた。

もうひとりはフランス軍のロベール・“ボブ”・マルビエ大尉である。コンバットダイバーと呼ばれる潜水特殊部隊の編成を進めていたフランス海軍は、海中で正確に隠密行動をするために優れた腕時計を必要としていた。しかし当時の市販品は、どれもその用途に適していなかった。

フィフティファゾムス 70 周年記念 Act 3は、水中カメラから着想を得たボックスに収められる。

そこで部隊を率いるマルビエ大尉らは、ブランパンにコンタクトをとった。ジャン=ジャック・フィスターが海を愛し、ダイビングを愛する男でもあったことを聞きつけていたからだ。海中で安心して使用できる時計の必要性を理解したフィスターは、彼らが提案した「黒いダイヤル」「読みやすい表示」「回転ベゼル」「夜光表示」に加えて、「ベゼルの逆回転防止機構」「ダブルOリングのリューズ」「自動巻きムーブメント」「耐磁性能」を加え、ついに1953年に製品化を果たした。

こうして生まれたフィフティファゾムスは、その優れたスペックで評判となり、多くの潜水士や軍人から愛された。そして海中で使用できるダイバーのための時計の必要性に気付いた多くの時計ブランドが、ブランパンの後を追った。フィフティ ファゾムスは、モダンダイバーズの原点と呼ばれているが、それは紛れもない事実なのである。

フィフティ ファゾムスのバイカラーの水密性表示を搭載したモデルは、アメリカ海軍の仕様案に合わせて開発されMIL-SPECの表記が入る。1957年〜59年にかけてテストされ、アメリカ海軍のUDT(水中爆破舞台)およびSEALダイバーの時計として採用された。堅牢なケースと読みやすい表示だけでなく、安心して使えるというのも重要なことだった。

アメリカ海軍の仕様案が改定されたことを受けて、非磁性素材を使ったモデルMIL-SPEC 2が1960年代初めに誕生。さらに光の反射を防ぐため、表面にツヤ消し加工を施し、ムーブメントのブリッジやメインプレートにはベリリウムを使用した。ちなみにフランス海軍の戦闘水兵やイスラエル海軍特別攻撃隊、ドイツ海軍の機雷処理部隊なども、フィフティファゾムスを制式時計に採用している。

モダンダイバーズウォッチの原点であるフィフティファゾムスを生み出したブランパンだったが、70年代のクォーツ革命の波を受けて一時期は休眠状態に陥ってしまう。その後、ジャン-クロード・ビバーによって再興され、機械式時計の伝統技術に光を当てたシックスマスターピースの成功で、華々しく時計業界へと復帰を果たした。しかし当時はドレスウォッチやコンプリケーションを強化していたこともあって、フィフティ ファゾムスはほとんど日の目を見ることはなかった。

そんなブランパンがフィフティ ファゾムスに本腰を入れ始めたのは、誕生50周年となる2003年からだ。なぜならその前年にCEOに就任したマーク・A・ハイエックもまた、ダイビングを愛し、水中写真家としても活動する海の男だから。つまりフィフティ ファゾムスは、ジャン=ジャック・フィスターとマーク A. ハイエックという海を愛する男たちによって、その伝統を守ってきたともいえるだろう。

レギュラーモデルとして待望の復活を果たしたフィフティ ファゾムスは、もちろんすぐに高級時計愛好家から万雷の拍手をもって受け入れられた。1953年モデルのスタイルを継承しつつ、防水性能は300mへとスペックアップ。さらにロングパワーリザーブモデルやコンプリケーションなどさまざまなバリエーションを追加。一躍ダイバーズウォッチの主役へと舞い戻った。

2023年はフィフティ ファゾムスの誕生 7 0 周年を迎える記念の年ということで、3モデルがリリースされた。フィフティファゾムス 70周年記念Act 1は2003年の復刻モデルへのトリビュートで、フィフティファゾムス70周年記念 Act 2は、潜水能力の進化に合わせた3時間計を搭載した現代のダイバーに向けたもの。そしてこのフィフティ ファゾムス 70周年記念 Act 3は、フィフティファゾムスの歴史の始まりである軍用ダイバーズウォッチへのオマージュを捧げるモデルとなった。

1953年に誕生したフィフティ ファゾムスは、その優れた機能が評価され、各国の軍隊が制式時計として採用。その後アメリカ海軍では1950年代後半に定めたミルスペック規格に準拠させるため、ダイヤルにモイスチャーインジケーターを加えることをブランパンに要請。これは時計内部に水が浸入すると6時位置のディスクが濡れて赤く変色することで、時計が故障する危険性を着用者に知らせるものだった。フィフティファゾムス70 周年記念 Act3はこのミルスペックモデルがベースとなっている。

原点モデルのディテールが丁寧に継承されており、例えばケース径は初代と同じ41.3mm。その一方でケース素材には、9Kのブロンズゴールドという特別な素材を採用。そもそもブロンズは加工しやすいため古来からさまざまな部品製造に用いられてきた。潜水士のヘルメットもそのひとつだ。

海との関係性の深い素材であるため、近年はダイバーズウォッチに用いられることも増えているが、フィフティファゾムスでは当時からミルスペックモデルのRef.3200からRef.3246という短いシリアルレンジのなかでこの素材を使用していた。しかしAct 3では、そのままブロンズ素材を使用するのではなく、37.5%のゴールドに50%のブロンズを割り金し、さらにシルバーやパラジウム、ガリウムなどを含む9Kブロンズゴールドを用いる。その結果、ブロンズ特有の酸化による緑青が発生せず、肌への負担も少ない。さらにゴールドともブロンズとも異なる色合いに仕上がっている。

初代モデルやミルスペックモデルを丁寧に解読し、ケースサイズやボックス型の風防なども継承。BLANCPAINのロゴは、当時使用していたブロック体に。

Cal.1154.P2を搭載。ブランパンでは初めて1000ガウスの耐磁性を実現。ケースバックはオリジナルと同じくツーピース構造だが、トランスパレント仕様だ。

1953年にフィフティファゾムスが誕生した時代、ダイバーズウォッチは完全なるプロフェッショナルツールであり、堅牢性と機能性が尊ばれた。しかし現在のダイバーズウォッチは、海を愛する人たちに選ばれるライフスタイルツールでもある。事実ブランパンは、過去70年にわたって、さまざまな団体とパートナーシップを組みながら、海洋保全活動や海洋探査を行っており、それをブランパン オーシャン コミットメントという形で発表することにより啓発活動を続けてきた。つまりフィフティファゾムス 70周年記念 Act3は、ブランパンの海を愛する気持ちを、華やかな形で具現化した時計なのである。

1953年モデルからほとんど変わらないスタイルは、そういった気持ちが変わらない証明でもある。モダンダイバーズウォッチの原点は、外見だけでなく、その熱いハートも含めて、語り継がれる時計となっているのだ。

ジュリアス・ランドルが、自らの時計コレクションとコレクション哲学を垣間見せてくれた。

ケンタッキー州レキシントンのラップ・アリーナから、現実離れしたロサンゼルスの眩しい陽光(それにレイカーズの伝説的選手である故コービー・ブライアント)、そしてニューヨーク・ニックスの本拠地であるマディソン・スクエア・ガーデンまで、ジュリアス・ランドルはスポットライトを浴びることに慣れている。彼はNBAキャリアの充実した日々をニューオーリンズで過ごし、同じ元ワイルドキャットのアンソニー・デイビスとプレーした。アンソニーは、チームの顔としての高い責任という点で、ランドルのメンターとしての役割を果たした。しかし、バスケットボールのアドバイスに加え、デイビスはランドルを時計コレクターという新たな境地に導いた。

ランドルが82試合のレギュラーシーズン(さらにプレーオフ)の過酷なトレーニングや練習に取り組んできたのと同じように、彼は時計収集の探求にも真剣に取り組んできた。彼のコレクションの時計はすべて彼自身が手に入れてきた時計であり、キャリアの象徴であり、それぞれの時計には特別な思い出と、スピリチュアルな力が宿っているのだ。

秋の初め、2023-24シーズンのトレーニングキャンプを目前に控えたランドルとニューヨーク市内の彼のアパートで会った。夏をどのように過ごしたか、そして彼のこれからのシーズンの見通しについて話をしてくれた。しかし、我々の時間の大半は、ご想像のとおり、腕時計、つまり彼の腕時計のことに費やされた。というのも、それは彼のコレクション哲学を反映しているからだ。ここで紹介する時計は(その価値が非常に高まっているにもかかわらず)投資対象ではなく、ランドルは時間をかけて次の時計を選んでいる。

ランドルの時計コレクションのすべてを見たわけではないが、代表的なコレクションを見せてもらいながら、それぞれの時計にまつわるエピソードを聞かせてもらった。ある時計は彼のキャリアの礎となった瞬間であり、またある時計は彼をうつ状態から立ち直らせるための精神的な支えにもなった…そしてある時計はその両方を兼ね備えていた。NBAと時計界は常にクロスオーバーしてきたが、ランドルは単なる時計愛好家ではなく、時計愛好家として際立った存在だ。今回のTalking Watchesでも、彼はその魅力を存分に発揮している。

ロレックス デイトジャスト

この時計がランドルにとって、時計コレクションという観点からでは、すべての始まりだった。アンソニー・デイビスという時計の第一人者のもとで指導を受けたランドルは、ダイヤモンドインデックスがダイヤルを飾るコンビのデイトジャストを購入した。見てみると、よく使い込まれ、よく愛されていることがわかる。この時計は、彼がこのワイルドな趣味の世界に足を踏み入れるきっかけとなっただけでなく、これは彼が毎年、頼りにし、戻ってくる時計なのだ。

オーデマ ピゲ ロイヤル オーク トゥールビヨン

ランドルは、この時計がチタン製であることから、信じられないほど軽量であることを最初に話すだろう。彼は当初、ブルーダイヤルに引かれていたが、その後、トゥールビヨンの構造に心を奪われたという。オーデマ ピゲ ロイヤル オークは、このコレクションでお目見えする数多いロイヤル オークのうちの最初のモデルである。

オーデマ ピゲ ロイヤル オーク フロステッド クロノグラフ

軽快なチタンから、はるかに重く、完全なる氷漬けの世界へと移る。これは、フロステッド加工を施したホワイトゴールドのオーデマ ピゲ ロイヤル オークで、ダイヤルは深い紫である。この時計が特別なのは、非常に限定的で入手が不可能に近いという事実以上に、基本的に彼が所有する時計を売らないという決断を固めた時計だからだ。

オーデマ ピゲ ロイヤル オーク オフショア クロノグラフ

時計が癒しになることもある。このロイヤル オーク オフショアは、ランドルが必要としたイタリア旅行のお供をしていた。目を見張るような、世界観が変わるような逃避行の道中、この時計はそのすべての瞬間に彼の腕にあった。ランドルはこの時計を身につけるたびに、イタリアでの素晴らしい時間を思い出す。

リシャール・ミル RM 11-03

オーデマ ピゲから少し遠回りして、我々はすぐにRM 11-03という真の大物に直面することになる。ランドルはこの時計を、彼にとって初めてのリシャール・ミルであり、これからも所有する唯一のリシャール・ミルと呼んでいる(この時計の購入について、彼の会計士はまだ許していないそうだ)。彼はこの時計の軽さとブランドが提供する互換性の両方を気に入っており、オートレースへの愛を思い起こさせるそうだ。この時計をつけて試合に出ると、彼はフルスピードで走っていることを実感する。

オーデマ ピゲ ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー

ランドルは複雑時計とそのメカニズムの理解者でもあり、愛好家でもある。パーペチュアルカレンダーはその意味で複雑機構の筆頭格といえる。しかし、複雑な時計も家族と共有することでシンプルになることがある。彼の場合、オーデマ ピゲのパーペチュアルカレンダーを愛用しているのは彼の子どもたちで、ムーンフェイズ表示に浮かび上がる満月を見るのが大好きなのだ。この時計を見たランドルは、近い将来ル・ブラッシュに行き、APマニュファクチュールを訪れたいとのこと。

オーデマ ピゲ ロイヤル オーク オフショア ミュージックエディション

オーデマ ピゲのレパートリーの最後を飾るのは、このエピソードの撮影中、ランドルが手首にしていた時計である。この時計は、オールスターゲームに出場したランドルが自分へのご褒美として購入したものだ。ムーンフェイズと同様、これは彼の子どもたちのお気に入りでもあるが、オールスター出場を常に思い出させてくれる時計でもある。これ以上最高のものはないだろう。

ロレックス GMTマスターII “レフティ” GMT

ロレックスに始まり、ロレックスに終わる。しかしこれはただのロレックスではない。トリを飾るのはGMTマスターII “レフティ(左利き用)”GMTだ。彼自身左利きなので、ランドルにとって特別なのだ。このような時計を自分のコレクションとして持つことは、彼にとって当然の成り行きと思ったそうだ。この時計は彼に、“この時計は左右どちらの手首につけたらいいのだろう?”と立ち止まらせた時計である。

ゼニスはブランドが誇る高振動クロノグラフのクロノマスター スポーツシリーズに加わるふたつの新作モデルを発表した。

ブランドの最もモダンなクロノグラフに、ふたつの新しい(そしてまったく異なる)バリエーションが加わった。

直径42mmのスティール製ケースを採用するクロノマスター スポーツは2021年初頭に発表され、クロノグラフとブラックまたはホワイトの文字盤がラインナップの中心だった。ここ数年のあいだに、貴金属、ツートン、そして少数のブティックエディションの展開が見られたが、本日の発表では、グリーンのトーンが特徴的なスティール製モデルと、メテオライト文字盤上のインデックスとベゼルへふんだんにジェムセッティングが施された、ローズゴールドモデルのオプションが追加された。

核となる機能は既存のクロノマスター スポーツモデルと同じで、3万6000振動/時のハイビートのエル・プリメロ コラムホイール クロノグラフムーブメントを搭載し、10分の1秒の計測(ベゼルで読み取ることができる)を実現している。宝石の有無やケース素材に関係なくケースは直径41mmで、新バージョンはいずれも特徴的な3色のクロノグラフサブダイヤルを備え、ランニングセコンド、クロノグラフセコンド(中央の針が10分の1秒を計測)、最大60分の計測が可能だ。

新鮮なのは、スティールモデルのグリーン文字盤(スティール製ブレスレットかグリーンのラバーストラップの選択も可能)と、そしてもちろん、ジェムセッティングモデルとそのメテオライト文字盤である。とはいえ、グリーンはまったく新しいものではない。昨年、アーロン・ロジャースとのコラボレーションによるブティック限定モデルでも同様のカラーリングで見られたからだ。そのモデルは、カラーとアラビア数字の採用の両方で常識を覆したが、この新しいグリーンモデルは、スタンダードモデルのバトン・アワーマーカーを残している。

ベゼルにはスピネル、サファイア、ダイヤモンドがセットされ、ブルー、ブラック、グレーの3色で構成され、カーディナルマーカーにはダイヤモンドがあしらわれている。ゴールドトーンのメテオライト文字盤にはダイヤモンドのバゲットマーカーが配され、デイトホイールもカラーマッチさせている。宝石はともかく、クロノマスター スポーツにはメテオライト文字盤がよく似合う。

価格は、グリーンモデルのラバーストラップが141万9000円、ブレスレットモデルが149万6000円、フルジェムセッティングが施されたピンクゴールドがなんと1265万円だ(すべて税込)。

我々の考え
特にクロノマスター スポーツは、ロレックス デイトナに対するゼニスの回答という位置づけであることを考えると、既存ラインの延長という点では、どちらも予想通りの展開といえる。グリーンは多くの時計ラインアップで依然として人気のあるオプションであり、宝石をセットするトレンドは多くの高級ブランドから支持を集め続けている(そして、フルレインボーにしなかったゼニスに賞賛を送りたい)。

クロノマスター スポーツのブラックやホワイト文字盤に比べれば、このふたつのオプションはニッチなものになると思わざるを得ないが(特に宝石がセットされたモデルには4桁万円の値札がつけられている)、SKU偏重としか言いようのない時計デザインの時代が続いているのだから、このように購入希望者にもっと選択肢を与えてもいいのではないだろうか。

この価格帯においてデイトナは他の追随を許さない人気を誇っており、ゼニスがグリーンのカラーリングやダイヤモンド、あるいはメテオライトダイヤルなど、買い手にアピールするためにできることは何でもやるのは仕方がないのだ。

LVMHウォッチ・ウィークの新作情報を続々と公開していくのでお楽しみに。

基本情報
ブランド: ゼニス(Zenith)
モデル名: クロノマスター スポーツ グリーンとクロノマスター スポーツ ゴールド プレシャスストーン(Chronomaster Sport Green and Chronomaster Sport)
型番: 03.3119.3600/56.M3100 (グリーン、ブレスレット)、 03.3119.3600/56.R952 (グリーン、ラバー)、22.3100.3600/69.M3100 (ゴールド、ジェムセッティング)

直径: 41mm
ケース素材: スティール、または18Kローズゴールド
文字盤色: グリーン、またはメテオライト
インデックス: グリーンモデルは夜光つきのロジウムメッキ、ゴールドモデルはバゲットカットのダイヤモンド
夜光: あり、スーパールミノバ SLN C1
防水性能: 100m
ストラップ/ブレスレット: 素材にあわせたブレスレット、Ref.03.3119.3600/56.R952にはグリーンのラバーストラップ

ムーブメント情報
キャリバー: ゼニス エル・プリメロ 3600
機能: 時、分、10分の1秒計測が可能なセンタークロノグラフセコンド、スモールセコンド(9時位置)、60分積算計(6時位置)、60秒積算計(3時位置)
パワーリザーブ: 60時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 3万6000振動/時
追加情報: ベゼルに10分の1秒目盛り、コラムホイールクロノグラフ、4時半位置に日付表示

価格 & 発売時期
価格: 141万9000円(グリーン、ラバーストラップ)、149万6000円 (グリーン、ブレスレット)、1265万円(ゴールド、ジェムセッティング)、すべて税込
限定: なし